マルチタスクができない…スタッフの致命的弱点を「圧倒的強み」に変えた、院長の神対応【医療コンサルが解説】

マルチタスクができない…スタッフの致命的弱点を「圧倒的強み」に変えた、院長の神対応【医療コンサルが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「デキる医事スタッフ」は貴重な人材であり、院長にとって頼もしい存在であることは間違いありません。しかし医事スタッフの労働市場は厳しく、希望通りの人材が採用できる確率は相当低いというのが現実です。優秀な人材と働くためのヒントを見ていきましょう。

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経験者募集は非現実的…医事スタッフの厳しい労働市場

以前、職業訓練校で講師を務めていた当社スタッフによると、医事スタッフの労働市場は厳しい状況におかれているようです。

 

医事スタッフを募集しているクリニックは多いのですが、「経験者」に限定しているところが大半なので、「未経験」である限り、いくらやる気があっても土俵にすら上がれないのです。実際に、彼女が教えていた生徒のうち、就職先を見つけられたのは20人中5人だけだったそうです。雇われる側が「正社員」や「給料XX万以上」といった条件に妥協しなかったことを差し引いても、ミスマッチは起こっているといえるでしょう。

 

一方、経験者は賃金が低いという理由で敬遠します。しかも、経験者だからといってレセプト請求業務に長けているとは限りません。要するにクリニックにおける医事スタッフ募集は、そもそもマッチングする相手がいないマッチングアプリで延々、出会いを求め続けているような状況になっているのです。

 

一因として挙げられるのが、レセコンや電子カルテの登場により、クリニックにおける省人化が中途半端に進んだことでしょう。

 

かつてレセコンや電子カルテは、「ドクターがカルテに書く内容をパソコンに入力すれば仕事は完結する。受付スタッフは会計ボタンを押して金銭の受け渡しをして、領収書を印刷すればいい」という触れ込みで導入が進んでいきました。

 

しかし、どこかで「レセコンや電子カルテは万能ではない」と気づき、レセプトに関する専門知識を持ったスタッフが必要なことを知るのです。人件費を削減できて便利だと喜んでいられたのは最初だけで、その代償として、レセプト請求業務がおろそかになり、10〜20年前までは院内で行われていたスキルやノウハウの伝達が途絶えてしまったのです。だからこそ今、レセプト請求代行業者が一定のニーズを確保しているのでしょう。

 

もちろんクリニックにとっては「経験者」が来てくれるに越したことはありませんが、こうした状況下で期待どおりの人材が採用できる確率は相当低いと思っておいた方がよいでしょう。

「デキるスタッフ」とは、院長が育て上げるもの

もしかしたら、院長の目から見て、スキルが乏しい、ミスが多いと感じる医事スタッフも中にはいるかもしれません。提出期限ギリギリにならないと完成しない、誤字脱字が多い、作業が遅い、報告がない、もしくは遅い、見直さない…。こうした癖の持ち主は、仕事を前倒しすることができないので、常に後手後手に回ってしまいます。不測の事態に備えられるはずがありません。

 

しかし、どんな人材でも成長できる土壌を作るのが経営者の仕事です。リーダーや教育係のような役割を担えるスタッフが育つまでは辛抱して、仕事の進捗管理を細かく行うなど、院長が率先して指導するようにしてください。100点満点を求めると、相手も自分も苦しくなります。たとえ30点の能力しかないとしても、その能力を活かせる業務を与えましょう。少しずつでもいいので、「できるようになった領域を広げていく」ことです。

 

人材育成は「担雪埋井(たんせつまいせい)」といわれます。雪で井戸を埋めるようなもので、手間と時間がかかる割には報われないかもしれませんが、努力し続けることが大切なのです。

「人材を活かそうとする視点」がデキるスタッフを生む

あるいは、視点を変えることで「仕事ができない」スタッフが「仕事ができる」スタッフに変わることもあります。一つ事例をご紹介しましょう。

 

あるとき、Xクリニックの医事スタッフとして、一人の女性が応募してきました。真面目で能力も高く、与えられた仕事は完璧にこなす反面、丁寧過ぎるために処理スピードが遅いうえに、目の前の業務に集中し過ぎて周りが見えなくなるところがありました。

 

レセプト業務だけでなく、受付業務や電話応対等も並行してこなさなければならない医事スタッフはマルチタスクを求められる仕事です。私自身、若い頃は「皿回しで一度に皿を何枚回せるかが勝負だ」と教育されてきましたが、1枚しか回せない人は「受付業務として不向き」ともいえるので、採用を見送るクリニックも少なくありません。

 

しかし、Xクリニックの院長は違いました。彼女がレセプト業務に携わるときは受付に立たせず、レセプトに専念できる環境を与えたのです。すると、周りの声が聞こえないほど集中して取り組み、しかも精度の高い仕事を短時間でこなせるようになる等、クリニックの貴重な戦力になったのです。もし「受付」としか見ていなければ、彼女の強みは引き出せなかったでしょう。人材を活かそうとする視点が、彼女にとってもクリニックにとってもプラスになる結果を生んだのです。

 

クリニックに才能豊かな人材や完成された人材が集まることを期待しないでください。優秀な人材が採用できたとすれば、それは“奇跡”です。スタッフの個々の能力や仕事の癖を見極め、チームでパフォーマンスを上げられるように考えてみましょう。

 

 

柳 尚信

株式会社レゾリューション 代表取締役

株式会社メディカルタクト 代表取締役

 

 

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※本連載は、柳尚信氏の著書『クリニック経営はレセプトが9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

クリニック経営はレセプトが9割

クリニック経営はレセプトが9割

柳 尚信

幻冬舎メディアコンサルティング

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