(※写真はイメージです/PIXTA)

昔ながらの体質の不動産業界にも、いよいよ電子化の波が押し寄せてきました。国土交通省の肝いりで「物件案内から引き渡しまでのオンライン化」が始まったのです。どのようなメリット・デメリットが考えられるのでしょうか。今後の展望を踏まえながら見ていきます。

オンライン重説の社会実験、6年前から始まっていた!

 

不動産業界が切望したオンライン重説がいよいよ解禁になったとはいえ、相対で説明してもトラブルが発生しているのに、オンラインになったらさらにリスクが高まるのでは? と心配になりますが、その点は国交省の管理の下、慎重に準備が進められています。

 

不動産取引のオンライン化に際し、国交省では2015年夏から賃貸借契約に関わるオンライン重説の社会実験をスタートさせ、2年後の2017年秋には本格運用に漕ぎつけています。つまり賃貸に関しては、すでに6年の実績ができていたわけです。オンラインによる賃貸借契約の一般的なフローは、以下の➀~⑤の通りです。

 

➀オンライン環境を確認する

まず、不動産会社と入居契約者間で「Zoom」などのビデオ会議ツールがつながるかどうか確認する予行演習をします。画像だけでなく、音声に途切れがないかなども念入りにチェックします。

※この段階で契約者がパソコンやスマートフォンを所有していないと、オンライン重説は実行できません。

 

②契約書類一式を契約者へ郵送する

オンライン重説に先立ち、重要事項説明書、賃貸借契約書など契約書類一式を契約者宛に郵送します。重説の実施日時は、これらの書類が契約者の手元に届いたことを確認してから決定します。

 

③オンライン重説の実施

実施日時になったら、宅建士と契約者はお互いにビデオ会議ツールを接続します。宅建士は相対での重説と同様に宅建士証をカメラに向かって提示し、契約者が宅建士証にある顔写真や所属会社情報等を確認した後、重説を開始します。

 

④署名・捺印後、書類返送

オンライン重説が終了し、宅建士が説明する内容について了承した契約者は、重説・賃貸借契約書などの必要箇所に署名・捺印を行い、重説を行った宅建士が所属する不動産会社宛てに契約書類一式を郵送します。

 

⑤入居開始(引渡し)

入居開始日、契約者は現地で不動産会社の担当者から鍵を受け取り、物件の引渡しは終了です。

 

前述の通り、これまでは不動産会社が契約者へ紙ベースの契約書類一式を郵送し、書類到着が確認でき次第、ビデオ会議ツールを利用して重説を行う、というものでした。これが新たに、データ化した契約書類をメール等で送付し、パソコンやスマートフォンの画面で閲覧しながら重説を行う形へと移行する準備(社会実験)がはじまったのです。

 

売買取引においても、2019年秋から開始されたオンライン重説の社会実験を経て、先行する賃貸になんとか追い付いた状況です。これで賃貸・売買とも足並みが揃い、各種書類のデータ化を含めた重説・契約の完全IT化に向けて邁進していくことになります。

煩瑣な手続き、顧客側のITスキル…懸念事項も残るが

 

不動産取引の完全IT化が進んでいるからといって、すべての不動産会社がオンライン重説を実施できるわけではありません。

 

実施を希望する不動産会社は、国交省のサイト上で社会実験参加登録を行う必要があります。そして、登録以降にオンライン重説を行う際は、通常の遂行業務のほか、以下のような責務を果たさなければなりません。

 

★契約書類一式(紙ベース)を契約者側へ事前に送付

★契約書類一式の電子書面(データ)を契約者側へ事前に送信

★オンライン重説に関する契約者の承諾を得る(同意書への署名・捺印)

★契約者側のIT環境を確認

★重説の実施中、その内容を録画・録音する

★重説後は、国交省等管轄機関への実施報告と資料提供、ヒアリング等に協力する

 

不動産会社側は結構大変です。社会実験段階だからということもありますが、契約書類は紙とデータの両方とも送り、重説風景は録画しなければならず、省庁への情報提供とヒアリングやアンケートへの回答までさせられることになります。

 

そして「オンライン重説に関する契約者の承諾」も曲者です。

 

不動産会社側がIT化を推進したくても、顧客側がパソコン操作に慣れていない、ネット環境がない、オンライン取引に不安があるなどと言って同意しなかったら、重説は旧態依然のスタイルで行うしかありません。

 

 

次ページオンライン化で犯罪の温床になる危険性も

※本連載は、『ライフプランnavi』の記事を抜粋、一部改変したものです。

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