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「歯医者になったらフェラーリに乗れるんや…」
「めっちゃかっこええなあ」
1972年、小学1年生の時のことです。それは運命の出会いでした。
友達と一緒に学校から帰る途中、その姿が突然、目に飛び込んできました。
輝いていて、一瞬で惚れました。吸い寄せられるように近寄り、気づいたらボディを撫でていました。
「こんな形なんや」
「思ったよりも大きいな」
友達とそんなことを話しながら、下からのぞいてみたり、中をのぞき込んだりを繰り返しました。私の心を奪った相手、それは紺色のフェラーリ・ベルリネッタ・ボクサー、通称BBでした。
当時、小学生の男の子たちを虜にしていたのはスーパーカーです。特に人気があったのが、ガルウイングのランボルギーニ・カウンタックです。ほかにも、ランボルギーニ・ミウラ、デ・トマソ・パンテーラ、ランチア・ストラトス、ポルシェ、ロータス・エスプリ、そしてフェラーリBBなど、名車を挙げればキリがありませんが、子どもたちにはそれぞれ好みのスーパーカーがありました。当然、大人でも買える人はごくわずかで、子どもたちにとっては夢のまた夢だったので、「スーパーカー消しゴム」が大流行し、子どもたちはこぞってコレクションしていました。
憧れのスーパーカーの一台が自分の目の前に止まっています。雑誌でしか見たことがなかったイタリアの名車を、まさか大阪の下町で見るとは夢にも思っていませんでした。
この日以来、学校に行くのが格段に楽しみになりました。好きな子がいると学校が楽しくなるのと同じように、登下校でフェラーリを見る(たまに触る)のが、なによりも楽しみになったわけです。この出来事は、私の未来を決める出来事でもありました。
一緒にフェラーリを見ていた友達が、
「歯医者さんて金持ちなんやな」と言います。
「なんで?」
と私が聞き返すと、友達は「だって、ほら…」と、歯科医院の看板を指差しました。私は、フェラーリに夢中で気づかなかったのですが、そこは近所の歯科医院の駐車場だったのです。
「歯医者さんか…。歯医者になったらフェラーリに乗れるんや…」
そして、私は決心しました。
「よし、歯医者になろう」
なんとも単純過ぎる動機ですが、このときから約20年かけて、私は歯医者を目指すことになったのです。