(※写真はイメージです/PIXTA)

開業以来、患者さんの笑顔を増やすことを医院の使命に掲げて治療を行ってきたという、あづみハッピー歯科医院院長・安積中氏。時には自虐ネタもいとわない安積氏は、相手を傷つけることなく笑わせるには「自虐ネタ」が役立ち、失敗が多い人ほど、上質な自虐ネタがたくさん詰まったネタ帳を持っていると語ります。通常、歯科医院と言えば「怖いところ」で、歯の治療は痛いもの。安積氏は、笑える心理状況にはない相手から、どのように笑いを引き出しているのでしょうか。

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笑いの決め手、「オチ」をどう見つけるか?

不安や退屈…相手の「満たされない部分」を解消できれば、笑ってくれる

オチは、笑いを引き出す決め手です。自分のネタ帳(経験や記憶)のなかで、相手に最もウケそうなネタを選別することが、オチを決めることです。

 

私の歯科医院を例に挙げると、あるとき、息子の浪人が決まったという母親が治療に来ました。

 

「先生、うちの子ね、全然勉強しないんです。案の定、浪人です」

 

悲しそうな顔をして、そんな愚痴をこぼすわけです。

 

この母親の場合、息子が浪人することに対して不安を感じていました。それなら、学力に関する自虐ネタがオチになります。幸い、私は勉強で苦労してきましたので(自慢することではありませんが)、ネタは豊富です。それを自分のネタ帳から引っ張り出すことによって、母親を安心させることができ、きちんとオチをつけて、相手を笑わせることができるわけです。

 

「お母さん、大丈夫です。僕は二浪ですが、こうして歯医者になることができたんですよ。しかも、在学中には留年もしています。一年留年で一留です。一留するくらいが一流なんですよ」

 

そう伝えると、母親はほっとした表情(もしかしたら呆れた表情かもしれませんが)を見せ、笑いました。

 

人は、不安が解消されたときに笑顔になります。おいしいものを食べたとき、優しくされたとき、退屈さやつまらなさが解消されたときなどにも笑顔になります。私が思うに、これが笑いのツボです。

 

笑っていない人や笑わない人は、心理的、身体的に満たされていない部分があるはずですので、それを満たすことができれば、それがオチになり、笑顔を引き出すことができ、笑わせることができます。そう考えると、重要なのは、相手が満たされていないと感じていることや、満たしてほしいと感じていることを見つけることです。

歯科治療における「オチ」と「ネタ」

再度、歯科医院を例にすると、患者さんにはいろいろなタイプの人がいます。せっかちな人がいれば、のんびりなタイプの人もいます。内向的で無口な人がいれば、外交的でおしゃべりな人もいます。

 

診察では、当然ながら歯や口の中を診るわけですが、そのときに、私は患者さんがどういう性格で、どういう人なのかを観察しています。その観察を経て、例えば、患者さんがせっかちな人であれば「短期間で治療して喜んでもらおう」といったオチ(治療方針)を決めます。このオチを踏まえて、初診から治療を終えるまでのネタ(治療計画)を考えます。

 

せっかちな人は、治療に時間がかかることを嫌がります。「早く終わらせたい」と思っています。その希望を満たすことにより、「早く終わって良かった」と笑顔になってもらえるのです。

「笑わせてやろう」の意識で患者満足度もアップ

患者さんのなかにも「歯医者はサービス業」と思っている人がいます。そのような人たちは通称として私を「先生」と呼んでくれつつも、本心では「こっちは金を払ってる客や」「俺のほうがエラい」「早よ治療せい」と思っていることもあります。また「お客さまは神さま」の上から目線で物事を考えているケースもあり、こちらが十分に説明しても「聞いてへん」「よう分からん」と言われることがあったり、「痛い」「遅い」「長い」「下手くそ」といったクレームが出てしまったりすることもあります。

 

歯科医療はサービス業の側面がありますので、治療で痛みを取るだけでなく、治療を通じて患者さんに満足してもらう必要があります。そのためにも、笑いを引き出すオチ(治療方針)が大事ですし、笑ってもらいやすくするためのネタ(治療計画)をもつことも重要です。

 

正直に言うと、前述のようなタイプの患者さんの治療はやりづらく、例えば、「うちでは治療が難しいです」などと言ってしまい、別の歯科医院に移ってもらうという選択肢も一つあるでしょう。

 

ただ、私は基本的には断りません。患者さんは歯医者を選べますが、歯医者は患者さんを正当な理由がある場合を除いて、選んではいけないと思っているからです。難しい相手です。しかし、そこで笑わせるチカラを発揮しようと考えます。

 

「よし、この患者さんの治療は5回や。最後の治療の日までに笑わせよう」

 

そんなふうに目標を立てて、笑わせるためのオチ(治療方針)を考えるのです。

 

このタイプの患者さんは、自分がぞんざいに扱われたり、雑に対応されたりすることに過剰に反応します。丁寧に扱ってほしいから、「自分は客や」「お金を払ってるんや」と強くアピールするのです。そのため、私はこのタイプの人と接する際には、いつもより丁寧にヒアリングします。笑顔で明るく、親切に接しながら、説明も治療もきちんと行います。

 

すると、徐々にですが相手の態度が変わっていきます。初診のときは「早よしてや」「痛くせんといてな」とタメ口の命令口調だった患者さんが、2回目や3回目の治療では「次回の治療はどれくらい時間がかかりますか」と、丁寧語に変わります。4回目には「痛みが取れた気がします」と、少し笑顔を見せるようになり、5回目の治療が終わるときには「治りました。ありがとうございました」と笑顔で帰って行くようになるのです。

 

これは快感です。大爆笑をとったときよりも爽快感があり、充実感があります。相手を笑わせることは、相手を気持ち良くするだけでなく、巡り巡って自分も気持ち良くなることなのです。

 

もちろん、これはうまくいったときの話です。全員が笑顔になってくれるわけではありませんし、完治してもむすっとしたまま歯科医院をあとにする患者さんもいます。

 

しかし、重要なのは「笑わせてやろう」という意識をもって接することです。丁寧に接すれば相手の笑いのツボが見えます。不満に思っている点が見え、不満を解消するオチ(治療方針)が見えて、ネタ(治療計画)が決まり、何をすればよいか把握できます。「面倒な患者さんだ」などと考え、嫌な気持ちで治療するのを避けられますし、「丁寧にやろう」と思うことで、うっかりミスを防ぐことにもつながるのです。

 

 

安積 中

あづみハッピー歯科医院院長

 

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※本連載は、安積中氏の著書『人生を切り開く笑いのチカラ』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

人生を切り開く笑いのチカラ

人生を切り開く笑いのチカラ

安積 中

幻冬舎メディアコンサルティング

人生における失敗や挫折を「笑い」に転換するための思考法とは? 日本人の4人に1人は何かしらの不満を抱えています。 老後の未来には年金不安と健康不安が待ち受けており、それに加えて、昨今ではコロナ禍での鬱々とした…

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