戦後、日本はずっと「小さなアメリカ」を目指してきました。半世紀にわたって私たちを苛み続けてきたこの目標を解除した途端に私たちの目の前にはさまざまな選択肢が生まれるといいます。そのためには何が必要なのでしょうか。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

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「構想の貧しさ」は「行為の貧しさ」に

■「大きな北欧型社会民主主義国家」を目指せ

 

では、どのような国家・社会モデルが目指すべき姿として描けるのでしょうか? それをここで拙速に論じることは避けたいと思いますが、これまで述べてきたイニシアチブとも併せて「小さなアメリカ」のアナロジーを踏襲して大きな方向性だけを示せば、それは「大きな北欧型社会民主主義国家」ということになると思います。

 

いたずらに経済成長だけを求めるよりも、格差を是正し、自然・芸術・文化に誰もがアクセスでき、本質的な意味でより豊かで瑞々しい生活を皆が送れる社会のイメージです……が、それはあくまで私個人の意見であり、最終的には社会全体の対話を通じて決定されるべきものでしょう。

 

なぜ私がここまで「社会の構想」にこだわるかというと、「構想の貧しさ」はそのまま「行為の貧しさ」につながるからです。

 

それを端的に示してくれる例の一つが1970年に開催された大阪万博です。この万博においてデモンストレーションとして提案されたテクノロジーのいくつかが実際にその後、社会に実装されたことは知られています。

 

よく挙げられるのはコードレス電話、温水洗浄便座、動く歩道、モノレールなどですが、開催テーマが「人類の進歩と調和」という壮大なものであった割には、率直に言って「このテーマでこれ?」という印象を拭えません。温水洗浄便座は確かに便利で快適ですが、これをもって「人類の進歩」といわれても、なかなか微妙なものがあります。

 

一方で「実現されなかったもの」をあらためて並べてみると、その構想力の貧しさに滑稽を通り越した一種の戦慄を覚えます。たとえば万博一の名物として当時大変な話題になった「人間洗濯機」などはその一例といえるでしょう(写真)。

 

1970年の大阪万博で「人間洗濯機」が話題になったという。
1970年の大阪万博で「人間洗濯機」が話題になったという。

 

人が頭を出した状態で直径2メートルほどのカプセルに入ると、超音波で発生させた気泡で体を洗い、前後のノズルから温水シャワーが出て、最後には温風を吹き付け乾燥までを全自動でやってくれる、という装置です。

 

いまから振り返ればタチの悪いジョークとしか言いようのないものですが、万博に向けた展示品の企画検討をする際、三洋電機創業者で当時は会長職の立場にあった井植歳男氏が「自分を洗う洗濯機を作ったらきっとウケる」と提案したのが発端となり、実現されてしまったようです。

 

驚くべきなのは、この人間洗濯機が単なる万博のデモンストレーションだけでは終わらず、実際に売り出されたということです。その価格はなんと800万円……当時の大卒初任給が3.7万円ほどだったので現在の価格に換算すると4000万~5000万円ほどになるでしょうか。当時の関係者はいったい何を考えていたのでしょう。

 

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ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口 周

プレジデント社

ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか? 21世紀を生きる私たちの課せられた仕事は、過去のノスタルジーに引きずられて終了しつつある「経済成長」というゲームに不毛な延命・蘇生措置を施すことではない…

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