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在宅医療を選択するがん患者とその家族の心境
地域中核病院やがんセンターなどから退院して、在宅医療の道を選択するがん患者は、近年とても増えてきています。
外来での通院治療ではなくて、在宅医療を希望してくるということは、病状としてはかなり重い状況です。そのような方に、筆者のような在宅医療を専門としている医師あるいは医療チームは、何を目指して医療を提供しているでしょうか?
まず、そのような病状の重いがん患者は、病院を退院するにあたって、時として次のような厳しい言葉を言われてきます。
「〇〇さん、今まで本当にがんとの戦い、頑張られましたね。手術も受けましたし、その後の化学療法も、吐き気などに耐えて、本当に頑張られました。でも残念ながら、がんは脳や肺、さらには肝臓まで転移していて、次第に大きくなってきています。体力も落ちてきてしまったので、とても今後の抗がん剤治療に耐えることはできないのでしょう。つまり、このまま病院に入院していても、できることはありません。退院をお願いできないでしょうか。」
このような言葉を聞いて、患者やその家族の頭の中では、次の言葉がリフレインしています。
「もうできることはないんだ。入院も継続できないというし、見捨てられてしまったんだ。」
筆者のような在宅専門医が、進行したがん患者のところに初めて伺うときは、患者とその家族はこのような心理状況にあるかもしれないと、心構えをして望みます。
実際、このような心情を言葉に出して、「あんたたちは何しに来たんだ。病院では、もうどうしようもないと言われて、退院してきたんだ。今更来ても遅い。とっとと帰れ。」と吐露する人もいます。
ここまで極端でないにしても、次のような言葉はよく聞かれます。
「わざわざ家まで往診に来てもらってありがとうございます。何とか退院してくることができました。先生方には、今後2週間に一度くらい来ていただければ、いいのではないかと思います。また訪問看護ステーションの方には、週に一度くらいでいいかもしれません。家にいろいろな人が入ることに対してとても気を使って疲れてしまうので、できるだけ来ないでください。」
このような絶望の淵にいる、あるいはあきらめの心境にあり、在宅医療を拒否している相手には、会話の中で、少しずつ在宅医療チームができることを認識していただけるように工夫します。
医師「そうですか。無理もないですよね。〇〇さんには、私たちは必要ないかもしれませんね。まあ、今日はもう来てしまったので、ちょっと話を聞かせてください。あそこに飾ってある写真に写っているきれいなお嬢さんは、娘さんですか?今はどこにお住まいなのでしょうか?会いたいですよね。」
患者「コロナで来るなと言っているんだ。東京に住んでいるし。」
医師「そうですか。それは寂しいですね。ところで〇〇さんは、コロナのワクチンは接種しましたか? 私たちがご自宅でも打つことができますよ。ワクチンを打っていれば、感染する確率も下がるし、娘さんにもしっかりマスクをつけてもらえれば、お話しするくらいでしたら、それほど危険はないですよ。ところでお通じの具合はどうですか? 薬の副作用なんかでお通じが出にくいのではないですか?」
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