※画像はイメージです/PIXTA

病院で管に繋がれる延命治療と、在宅療養。どちらが幸せかは、人それぞれ異なるもので、強要できるものではありません。ここでは、在宅療養支援クリニック かえでの風 たま・かわさき院長の宮本謙一氏が、実際に診た80代男性の事例について解説していきます。

「チューブから栄養剤」嫌がる患者が出した答えは…

Dさん(80代の男性)は脳梗塞と、それに伴うさまざまな合併症により一時的に意識障害をきたし、その後長期入院を余儀なくされていました。

 

Dさんは寝たきり状態となり、嚥下機能検査(どれだけうまく食べ物を飲み込むことができるか)で「重度の嚥下障害で回復の見込みなし」と診断され、嚥下機能改善を目指したリハビリテーションを受けることもなく、鼻から胃の中にチューブ(経鼻胃管)を入れられたまま、そこから強制的に栄養剤を投与される生活となりました。

 

Dさんは必死で抵抗し、何度も経鼻胃管を手で引き抜き、口から食べさせてくれと訴えましたが、その後は安全のために手足を布で縛られて抵抗できなくなりました。

 

こんな状態では生きている意味がないと、見るに見かねた家族が主治医に退院を申し入れましたが、「家に帰ったら必ず数日以内に死に至ります」と拒絶されました。

 

そこで家族から相談を受けた私たちが在宅の医療サービス(訪問診療、訪問看護、訪問薬局)と介護保険サービス(ケアマネジャー、訪問介護、訪問入浴、介護用品等)の態勢を整えたうえで病院と交渉したところ、「二度とその病院に入院はしない」という条件付きで、やっと退院することができたのでした。

 

Dさんは、かつて有名企業の社長を務めた、とても威厳がある方で、普段はとても強面でした。しかし、退院直後に私が経鼻胃管を抜去し、とろみ付きの果汁を少し口に入れてあげると、溢れんばかりの笑顔で、涙ながらに大喜びしていました。

 

経鼻胃管が入っていると、より嚥下が困難となり、唾液もうまく飲み干せず、誤嚥性肺炎のリスクが上がるとの考え方もあります。

 

実際にDさんも、入院中は口から何も食べたり飲んだりしていないにもかかわらず肺炎を繰り返していましたが、退院後は少しずつとろみ付きの食べ物やゼリー状の食べ物を口から食べられるようになり、肺炎を発症する頻度が減少しました。

次ページDさんが在宅療養で「取り戻したもの」

※本連載は、宮本謙一氏の著書『在宅医療と「笑い」』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

在宅医療と「笑い」

在宅医療と「笑い」

宮本 謙一

幻冬舎メディアコンサルティング

在宅医療は、通院が難しい高齢の慢性疾患の患者さんや、がんの終末期の患者さんなどが、自宅で定期的に丁寧な診察を受けられる便利な制度です。 メリットは大きいのですが、うまくいかないときもあります。 医師や看護師…

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