「おかしな数字」には2種類ある
「おかしな数字がないか、よく数字を見ておけ」ビジネスにおいて、このような言い方をよくします。では、「おかしな数字」とはいったいどのようなものをいうのでしょうか。
たとえば、会社の決算を例に考えてみましょう。実際にモノが売れていないにもかかわらず売上を帳簿に載せると、決算書の売上高と売掛金は「おかしな数字」になりますし、借入があるにもかかわらず帳簿に載せないと、借入金残高が「おかしな数字」になってしまいます。これらのケースにおける「おかしな数字」とは、不正もしくは誤謬(ごびゅう:ミスをすること)の結果として生じた「誤った数字」といえます。
一方、それに対して、たとえば決算数値を前年比で見て、著しく売上が増加もしくは減少した場合、当期の売上高は「おかしな数字」ではないか、という言い方をすることがあります。このケースにおける「おかしな数字」とは、通常とは異なる何らかの事象が発生した結果生まれた「説明がつかない、異常な数字」、もしくは「説明を要すべき、特殊な数字」といえるかと思います。
ここで気を付ける必要があるのは、「異常=誤り(もしくは不正)」ではない、ということです。先ほどの売上高のケースでいえば、特需により売上高が激増した場合、その特需という事象が把握された瞬間に、「おかしな数字」は「おかしくない数字」になります。
このように「おかしな数字」には、不正もしくは誤謬により生じたものと、異常事象もしくは特殊な事象の結果として生じたものとに大別できるかと思います。これら「おかしな数字」に共通していえることは、「おかしな数字」を見抜く、見極めるということは、会社の決算に不正や誤謬がないかを検討するためにも、また説明を必要とする事象が発生していないかを知るためにも、とても重要だということです。
だとすれば、決算書にかかわるあらゆる人にとって、「おかしな数字」を理解し見抜くということは、必要不可欠な知識やノウハウといえます。
「おかしな数字」を見抜くために必要なモノとは・・・
筆者が新人会計士のころ、筆者と先輩会計士のAさんは、ある上場会社の子会社を監査することになりました。現場に着くと、さっそく監査に必要な資料をお願いしました。監査では、さまざまな資料が必要となりますから、貸借対照表や損益計算書などといった決算書やそのもととなる試算表、総勘定元帳、補助元帳などを準備してもらうことになります。
Aさんは、その会社の経理部長から提出された決算書を見て、筆者に「何かがおかしい」と言いはじめました。Aさんが「おかしい」と指摘したのは損益計算書を見てのことでしたが、筆者には何が「おかしい」のか、まったくわかりませんでした。
Aさんがそのとき、筆者に言ったことは、「販管費(「販売費及び一般管理費」のこと)のなかに、外注費が1,200万円ある。外注費は製造原価として計上されることが多いはずなのになぜだ? この会社で営業や経理を外注に出したという話を聞いたこともないぞ。しかも外注費が1,200万円ピッタリというのはどういうことだ? 毎月100万円定額で外注費が発生しているのか?」というような内容でした。
そこで契約書や請求書などを詳細にチェックすることになりました。すると、各資料に不自然な点が多く発見され、何を外注に出したのか、どのような作業を外部にやってもらったのか、不明瞭な状態だったのです。結局、社長を問い詰めると、社長の親戚の会社に架空の注文を出して、毎月100万円の資金をその会社に流していたことがわかりました。
といっても、このエピソードと同じような勘定科目や数字が決算書に表れてくれば、必ずそこには不正があるのかといえばそうではありません。あくまでその会社の状況を把握した上で導かれた「おかしな数字」の見分け方をする必要があるということです。
筆者は当時、「おかしな数字」を見抜くためには、必ず証拠書類を確認しなければならない、と思っていましたので、Aさんが決算書をちょっと見ただけで不正の糸口を発見したのは、非常に印象的でした。Aさんは、単に「外注費が販管費に計上されていれば、それは不正だ」とか「ピッタリの数字には気を付けろ」などという見方で、決算書を読んだわけではありません。
当時の筆者にはその「おかしな数字」の見分け方について、よくわかりませんでしたが、Aさんが「何らかの視点」をもっていたから「おかしな数字」を見分けられたのだな、ということだけはわかりました。
では、「おかしな数字」を理解し見抜くためには、どのような「視点」をもっていればよいのでしょうか。同じ数字を見ても、ある人は気付き、ある人は気付かない。この違いはどこにあるのでしょうか。それは一言でいえば、「おかしな数字」を意識しているか、ということにつきますが、では具体的にどういうことを「意識」すればよいのでしょうか。
次回は、この「意識」する上で欠かせないと思われる「おかしな数字」に対する基本姿勢というものを、具体的に見ていきます。
【POINT】
「おかしな数字」は、ビジネスのあらゆるシーンに登場するということをまず意識せよ。