(※画像はイメージです/PIXTA)

民事信託とは、自分の財産を信頼のおける家族などに管理してもらう制度です。民事信託の利用で、認知症への備えや、自分亡きあとの家族の生活設計も可能になるほか、ビジネスでは、自社株の承継者を次の次の代まで指定するなど、遺言より自由かつきめ細かく決めておくことができるのです。民事信託が活用できる代表的な例を見ていきましょう。IPAX総合法律事務所の工藤敦子弁護士が解説します。

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営利目的でなく家族等が引き受ける信託=「民事信託」

「信託」とは、委託者が財産を受託者に預け、受託者がその財産を受益者のために管理・処分し、受益者に利益等を得させることをいいます。

 

委託者は、自分を受益者として利益等を受け取ることもできます。投資信託のように事業として行う信託を商事信託、営利を目的とせず家族などが引き受ける信託を「民事信託」又は「家族信託」といいます。

民事信託の具体的な機能とは?

★倒産隔離機能

信託により、信託財産は委託者名義から受託者名義に変わるため、委託者が破産した場合でも、債権者は信託財産から債権の回収を行うことはできません。また、信託財産は受託者名義になりますが、受託者は信託契約に基づき管理等を行うに過ぎないため、受託者が破産した場合でも、債権者は信託財産から債権の回収を行うことはできません。

 

つまり、委託者や受託者が破産しても、信託財産は影響を受けることはありません。

 

財産の管理機能・後見の補完機能

信託により、委託者は、自分の財産を受託者に管理させることができます。例えば、所有者が自分を受益者として賃貸物件を長男に信託すれば、管理は長男にやってもらい、賃料収入は自分が受け取るということが可能になります。また、妻を受益者として、賃料収入は妻に受け取らせるということもできます。

 

賃貸物件の所有者が認知症になり判断能力がなくなると、成年後見人を選任しなければ、新たな賃貸契約の締結や賃貸物件の修繕などはできません。しかし、所有者の判断能力があるうちに信託契約を締結しておけば、認知症になった場合でも、受託者が新たな賃貸契約の締結や賃貸物件の修繕などをすることができます。

 

遺言の補完機能(受益者連続型信託)

信託契約において、受益権を複数の受益者に順に承継させることを決めておくことができます。これを受益者連続型信託といいます。

 

上記の例で、信託契約で自分が死亡した後は、妻を受益者とすると指定しておけば、長男に賃貸物件の管理を任せ、生存中は自分が賃料収入を得て、死亡後は妻に賃料収入を受け取らせることができます。遺言で妻に賃貸物件を相続させても、妻は賃料収入を受け取ることができますが、妻が認知症になる可能性を考慮すると、受益者連続型信託としておく方がよいかもしれません。

 

また、例えば、経営者が自分の死亡後は、長女を後継者とし、次の後継者は長男の息子にしたいという希望を持っているとします。遺言では、長女に株式を相続させることはできますが、次の後継者の指定はできません。他方、信託契約で、受益者を経営者とし、経営者死亡の場合は長女を、長女死亡の場合は長男の息子を受益者とすると指定しておくことにより、長女の次の後継者まで指定することができます。このような信託を受益者連続型信託といいます。

 

受益者連続型信託は、信託契約時から30年経過した後に、受益権を獲得した受益者の死亡又は受益権の消滅によって終了します。上記の例で、長男の息子の後の後継者も代々指定しておくことは可能ですが、長男の息子が承継するまでに、30年が経過している場合には、長男の息子の死亡時に信託は終了し、次の後継者が受益権を承継することはできません。もっとも、信託終了の場合の残余財産の帰属先を決めておくことは可能ですので、次の後継者を残余財産の帰属先としておけば、長男の息子の死亡時に株式自体をその者に引き継がせることは可能です。

 

また、信託は、受託者と受益者が同一人物になった場合、1年間で終了します。上記の例で、長女や長男の息子を受託者とすると、長女や長男の息子が受益者になってから1年で信託が終了してしまいます。受益者連続型信託では、将来の受益者を受託者にしないように注意してください。

 

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