紛糾する遺産分割協議…「特例の適用」はあきらめるしかない?【弁護士が解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

遺産を共有状態で放置すると、さまざまな問題が発生するため、遺産分割協議は早期の実施が望まれます。まとまらない場合は、遺産分割調停で第三者をあいだに入れて協議する方法もあります。相続税の申告期限に間に合わない場合、共有のままでは相続税減税の特例が適用できなくても、再度の申告で適用できる場合があります。IPAX総合法律事務所の工藤敦子弁護士が解説します。

 

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「遺産分割」できないと、さまざまな問題が発生する

遺産分割とは

人(被相続人)が亡くなり、相続人が複数いる場合、遺言がなければ、被相続人の財産は、全て、相続人の共有になります。

 

この共有財産を、どの相続人がどの財産を引き継ぐかを決めることを「遺産分割」といい、そのための協議を「遺産分割協議」といいます。

 

相続財産の凍結

遺産分割協議がまとまらず、遺産が共有されたままだと、その処分には、相続人全員の同意が必要となり、機動的な処分ができなくなります。

 

例えば、銀行預金を、葬儀費用や相続税の支払いに使ったり、不動産や自動車などの財産を売却したりしたくても、一人でも反対するとできません。全相続人の同意が得られず、相続財産を利用できない状態のことを、俗に「相続財産の凍結」といっています。

 

近隣に迷惑をかけるおそれ

例えば、相続財産の中に空き家があり、それを引き継ぐ者が決まらない場合、誰もその空き家を管理せずに放置していると、老朽化した建物の倒壊や、育ちすぎた庭木が道路や隣接地に張り出すなど、近隣に迷惑をかけてしまう恐れがあります。

 

権利の複雑化

遺産分割がなされないまま長期間放置すると、そのあいだに相続人が亡くなって二次相続が起こり、権利関係が複雑になってしまうという問題があります。例えば、相続開始時は、相続人はきょうだい3人であったが、その後きょうだいが亡くなり、その子が相続したとします。各人に3人の子がいた場合、相続人は9人になってしまいます。

 

さらに放置すれば、さらに増えていくでしょう。代を経ることにより人数が増えるばかりでなく、相続人同士の関係性は希薄になり疎遠になります。行方の知れない者か出てきたり、連絡が取れても、一切協力してくれないという人もいるかもしれません。

 

そうすると、例えば、空き家となった不動産を処分しようにも、処分ができないというリスクがあります。明治時代から放置され、現在、相続人が100人を超えてしまったという例もあります。

協議がまとまらない場合は「遺産分割調停」を利用

当人同士では遺産分割協議がまとまらない場合、問題が大きくなる前に、家庭裁判所に申し立て、遺産分割調停の利用により解決を図ることを検討しましょう。遺産分割調停とは、家事審判官(裁判官)とふたりの調停委員で構成される調停委員会が、相続人のあいだに立ち、中立公正な立場から、各相続人の言い分を聞き、具体的な遺産分割方法を提案するなどして、遺産分割協議をまとめるようにする手続です。

 

調停を使うメリット

遺産分割調停では、関係がこじれてしまい、相続人間では話し合いをするのが困難な場合でも、直接顔を合わせることなく、調停委員を介して話し合いを進めることができ、また、第三者の視点からアドバイスを受けることができるので、冷静に協議することが可能になります。

 

調停を進めるコツ

相続人同士の関係性や過去のしがらみなどの周辺事情や、最終的に目指しているゴールなどを包み隠さず調停委員に伝えておくことが、調停を円滑に希望に沿って進めるコツとなります。

 

不利益な事実でも調停委員に伝え、全体像を理解してもらうことが肝要です。相手方には伝えたくないことは、その旨断って調停委員に伝えれば、相手方には秘密にしておいてもらえます。

 

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    IPAX総合法律事務所 カウンセル弁護士

    1986年大学卒業後、映像・イベント制作会社、都市計画研究所等勤務を経て、2003年弁護士登録。2014年~2016年英国スウォンジー大学留学(法学修士課程卒)、ロンドン及びタイ王国バンコクの法律事務所にて研修勤務。

    国際・国内企業法務全般、知的財産権法関連案件(特許、商標、不正競争防止法)、紛争解決(システム開発関連、企業不祥事、労働案件、船舶融資等)、国際・国内相続案件を得意とする。

    東京簡易裁判所民事調停委員、NPOのための弁護士ネットワーク理事、NPO法人日本ファンドレイジング協会監事、東京中小企業家同友会所属。

    著者紹介

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