全世界でコロナうつ急増…メンタルが悪化した人の“世界的傾向” (※写真はイメージです/PIXTA)

OECDの報告によると、2020年に新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以降、世界的にメンタルヘルスが悪化しています。不安や抑うつの有病率が増加し、欧米諸国ではコロナ以前に比べて2倍もしくは2倍以上となった国も少なくありません。メンタルヘルス悪化の実態を各種報告とともに見ていきましょう。大西睦子医師が解説します。

新型コロナにより、世界中でメンタルヘルスが悪化

東京の自治体でワクチン接種をしていると、不安や苦痛の声をよく耳にします。

 

「失業中で保険がありません。ワクチンの副反応が出ても病院に行けず不安です」

 

「一人暮らしだから、ワクチンの副反応もコロナにかかるのも怖い」

 

「コロナに感染した後遺症で、息切れや不安感が続いています。夫も同じ状態で、夫婦二人とも働けません」

 

「長い自粛生活、ストレスと運動不足、不眠が続いています」

 

「大学2年生です。入学してから授業はずっとオンラインで、まったく友達ができず孤独を感じます」

 

「預け先がないので、子供だけで留守番しています。とても心配です」などなど…。

 

このような状況は東京だけではありません。経済協力開発機構(OECD)は、「新型コロナウイルスの危機は、経済的不安や失業、恐怖などのメンタルヘルスの低下につながるリスク因子を高めた。その一方で、社会とのつながり、雇用と教育への関与、運動へのアクセス、日常生活、医療サービスへのアクセスという、保護因子(=健康リスクの軽減・排除に役立つ要因)は劇的に低下した」と述べます(※1)

 

OECDのデータを引用し、著者が作成
[図表1]不安の増加 OECDのデータを引用し、著者が作成

 

OECDのデータを引用し、著者が作成
[図表2]抑うつの増加 OECDのデータを引用し、著者が作成

 

※1 https://www.oecd.org/coronavirus/policy-responses/tackling-the-mental-health-impact-of-the-covid-19-crisis-an-integrated-whole-of-society-response-0ccafa0b/

「メンタルが特に悪化しやすい人」は世界共通

OECDは、「国を超えて、失業者や経済的不安を経験している人々のメンタルヘルスは、一般の人々よりも悪化した」「とくに、若者、一人暮らしの人、社会経済的地位の低い人、失業中の人は、精神的苦痛の割合が高まった。逆に、リモートワークを含め、制限中に働き続けることができた人は、少なくとも新型コロナ危機の初期段階では、うつ病や不安が低かった」と述べます。

 

ランセット精神医学の報告によると、2020年3月、英国でロックダウンが始まってから20週間、不安スコアを継続的に測定したところ、低学歴または低所得の人は、一貫して不安スコアが高まりました(※2)

 

英国からの別の報告によると、収入が減少し、ユニバーサル・クレジット(英国の低所得層向けの給付制度)や自営業者の助成金など、国の支援に依存するようになった人、長期的な財政難を経験している人は、メンタルヘルスがより悪化しました(※3)

 

また、これまで精神疾患の有病率は男女差があり、女性のほうがうつ症状や不安を訴える割合が高いことが知られています。新型コロナの危機により、うつ症状や不安の男女差はさらに拡大しました。米国の報告では、2020年3月から4月にかけてのパンデミックの初期段階で、メンタルヘルスの男女格差は、66%にまで拡大しました(※4)

 

※2 https://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS2215-0366(20)30482-X/fulltext

※3 https://www.natcen.ac.uk/media/2050456/Society-Watch-2021-Mental-Health-Should-We-Be-Worried.pdf

※4 https://www.repository.cam.ac.uk/handle/1810/310906

米国で最も精神的ダメージを受けたのは「18~24歳」

「経済回復」はメンタル改善に直結しない

ハーバード大学など、米複数の大学の研究者らによる「50州のCOVID-19プロジェクト」は、感染と社会的行動の関係を知るために、全米50州でさまざまな大規模調査を実施しています。チームの以前の研究で、うつ症状と不安が経済的ストレスと密接に関連していることが示されました。

 

それなら経済が回復するにつれて、メンタルヘルスも改善するだろう…と予想されるかもしれません。ところが、1年間の隔離生活、政治や社会の混乱の影響などのため、それほど容易にメンタルヘルスは改善しないようです(※5)

 

米自殺学会のジョナサン・シンガー会長は、米紙ワシントン・ポストで「若者は自分のアイデンティティ、社会における自分の立ち位置を探すものです」「そしてまさに今、人生に行き詰まっているわけです。仕事につけない、将来の計画が立たない、進むべき道が見えない。家にこもって自分が重荷になっていると感じる。これは厳しい試練です」と話します(※6)

 

「50州のCOVID-19プロジェクト」によると、最も大きな打撃を受けた年齢層は若年成人(18〜24歳)で、少なくとも42%が中等度のうつ病に苦しみ、25〜44歳が32%、45〜64歳が20%と続いています。65歳以上は、平均して影響が最も少なく、中程度以上のうつ病は10%です。

 

子供と同居している親は一貫してうつ病の発生率が高く、その割合は35%です。一方、子供と同居していない親のうつ病発生率は25%と、両者の間には約10%のギャップがあります。この違いの1つには、親の年齢が関与しているかもしれません。一般的に、子供と同居している親は、同居していない親よりも若い。他にも、リモート教育などのストレスも反映されている可能性があります。

 

さらに、教育レベル、年収や人種によっても違いがありました。

 

大学教育を受けていない人(30%)は、大学教育を受けた人(23%)よりもうつ病率が高い。同様に、年収3万ドル未満の人は、うつ病率(35%)が高まりました。ただし、より多くの収入を得ている人々のうつ病率のパターン(23〜24%)はあまり明確ではありませんでした。

 

アジア系アメリカ人のうつ病の割合は、2021年3月以降22%から27%に増加しました。白人と黒人はともに、27%がうつ病を報告。ラテン系は一貫して33%で最も高いうつ病率を報告していますが、昨年12月のピークの36%以降減少しています。

 

※5 https://covidstates.org/

※6 https://www.washingtonpost.com/health/2020/11/23/covid-pandemic-rise-suicides/

運動量の低下はうつ病の主要リスクだが…

身体活動を増やしても、メンタルヘルスは回復しない

米カーネギーメロン大学のシルビア・サッカルド博士らは、2021年3月の米国科学アカデミー紀要(PNAS)の報告で、身体活動が減ると、うつ病やその他のメンタルヘルスの問題が高まることを指摘します(※7)

 

博士らは、682人の大学生を対象に、2019年春、2019年秋、2020年春に、スマートフォンのアプリとウェアラブルトラッカーを使用し、パンデミック以前および最中の、身体活動、睡眠、時間の使い方、メンタルヘルスの変化を定量化しました。

 

すると、パンデミックの始まりに、対象者の1日あたりの平均歩数は10,000歩から4,600歩に減少。睡眠は1日あたり25〜30分増加しましたが、社交に費やす時間は1日あたり半分以上から30分未満に減少、スクリーンの時間は2倍、1日5時間以上に増えました。そして2020年3月から7月の間に、臨床的うつ病のリスクは46〜61%で、パンデミック直前と比べて、そのリスクが90%増加しました。

 

つまり、身体活動の低下は、うつ病の主要なリスクということです。運動習慣を維持した人は、身体活動が減った人よりもリスクが大幅に低くなりました。

 

ただし2020年初夏、身体活動を短期間回復させても、メンタルヘルスは回復しませんでした。

 

※7 https://www.pnas.org/content/118/9/e2016632118

「州、支持政党、ワクチン接種」もうつ病発症に影響

感染状況が大きく改善しても、メンタル回復には直結しない

さて、前述の「50州のCOVID-19プロジェクト」に戻りましょう。このプロジェクトの2021年5月の報告によると、米国では、地域、支持政党、ワクチン接種の有無などが、うつ症状や不安と関連しています(※8)

 

研究者らは、2021年4月1日から5月3日までの間に、全米50州+コロンビア特別区の21,733人を対象に調査しました。

 

米国では、冬以降パンデミックの著しく改善した(当時)にもかかわらず、うつ病の有病率およびその他のメンタルヘルスは改善しませんでした。対象者の28%がうつ病を報告し、2020年12月のピークの30%と比較してわずかに減少しましたが、新型コロナ危機以前の約3倍のままです。対象者の23%は、昨年12月同様に、ときどき自殺を考えると回答しています。

 

米国では、うつ病の割合は州によってかなり異なります。最も低い5つの州のうち、4つは北東部(コネチカット州、ニューハンプシャー州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州)にあり、20%から22%の範囲。最も高い割合の州は、テキサス州、ウェストバージニア州、アラバマ州、オクラホマ州、アラスカ州で、33%から34%です。

 

また、うつ病の有病率と支持政党には依然として強い関連性があり、民主党は30%、無党派は30%、共和党は21%でした。

 

興味深いことは、うつ病の人のワクチン接種率は32%であり、うつ病でない人の51%と比較すると、中程度以上のうつ病の人ではワクチン接種率が低い。ただし、この違いはワクチンへの抵抗感によるものではないようです。ワクチンに抵抗を関じる割合は、うつ病の人は20%、うつ病でない人は18%でした。

 

研究者らは、「うつ症状や不安のために、ワクチン接種を受ける意思のある人がワクチン接種を受けられないのであれば、アクセスを向上させる戦略が重要になる」と考察しています。

 

日本では、ワクチン接種が進み、感染者の低下、そして緊急事態宣言が解除されました。記事冒頭で述べた、ワクチン接種会場で耳にするさまざまな不安や苦痛が、新型コロナウイルス危機の後遺症として残らないように、原因の追及と対策が急がれます。

 

※8 https://osf.io/cgfzt/

 

大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

 

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星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員 内科医師、医学博士

米国ボストン在住。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年から13年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員。

【主な著書】
『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)
『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)
『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状~GGO For Doctor

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