終末期患者がもつようになる「死への苦悩」
Iさん(70代の男性)は、消化器系のがんが進行し体中に拡がった状態で、消化管からの出血が持続しており、残された時間は2~3週間程度との説明を受け、自宅に退院してきました。
当初は「苦痛だけ取ってくれ」「楽に逝かせてくれ」と繰り返していましたが、幸いがんの進行がゆっくりで、出血も止まり、身体的苦痛もほとんどなく、しばらく穏やかな時間を過ごしていました。しかしIさんにとっていちばんつらかったのは、不安やうつなどの精神的苦痛と、「生きていても仕方がない」「自分がいなくなっても誰も困らない」といったスピリチュアルペインでした。
精神的苦痛については、家族がいつも明るく献身的に介護していたおかげで、深刻な問題にはなりませんでしたが、スピリチュアルペインに関しては、いつも涙を流しながらさまざまな訴えや質問があり、それに対して私も十分な回答ができず、禅問答のようなやり取りとなってしまいました。
どうすればIさんの苦痛を和らげることができるのか、私自身深く悩んでいましたが、Iさんは菩提寺の住職さんからお釈迦さまの教えについて話を聞き、自らも仏教に関するさまざまな書籍を熟読してその本質を学ぶことで、まるで人生を達観したかのように心の平静を保つことができるようになりました。
スピリチュアルペインに対する治療法は確立されておらず、まずは傾聴と共感が重要であるとされています。また、スピリチュアルペインを「自分らしさの喪失」「アイデンティティの不安」ととらえると、在宅療養自体がスピリチュアルペインの緩和につながる可能性があります。
人生最期の日々を、家族に囲まれて自宅で過ごすことで自分らしさを取り戻し、また自分の存在がこの世から消えてしまっても「家族」や「子孫」という存在が残るということを実感すれば、スピリチュアルな「何ともいえないつらさ」を緩和することができるのではないでしょうか。
私はそれに加えて、笑いにスピリチュアルペインを癒やす効果が期待できるのではないかと考えています。笑いは、人間誰もが生まれながらに身につけている「癒やしのツール」です。
日本には「笑う門には福来たる」ということわざがあります。これは、中国の「笑門来福」ということわざが日本に伝わったものです。そして、欧米諸国をはじめ、世界中に、似たような意味のことわざがあるそうです。
笑いはすべての人に福をもたらす、すなわち、笑いはあらゆる苦痛も和らげてくれる、だから、スピリチュアルペインという十分な治療法のない苦痛に対しても笑いの力を信じたい、それが私の想いです。
宮本 謙一
在宅療養支援クリニック かえでの風 たま・かわさき 院長
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