※画像はイメージです/PIXTA

在宅療養支援クリニック かえでの風 たま・かわさき院長の宮本謙一氏は「どんなに重い症状の方でも人生を楽しむことは可能であり、在宅療養生活では、入院生活とはまた違った笑いあふれる日々を過ごすことができる」と語ります。ここでは同氏が実際に診た、2人の男性患者の事例について解説していきます。

嚥下障害の患者が「お酒を飲みたい」と言い…

入院生活ではなく在宅療養を選択する理由は人それぞれですが、お酒が大好きで、自由に飲みたいから家にいたいという方もいます。

 

脳梗塞後遺症で嚥下障害を合併し、胃ろうから栄養剤を投与している患者Fさん(80代の男性)は、認知症も進行しており、次第に怒りっぽくなり、家族も手を焼いていました。

 

ある日、Fさんの診察に訪れた私は、異変に気づきました。明らかに顔が赤くほてっていたのです。

 

最初は熱があるのかと思い、すぐに体温を測りましたが正常でした。いつもより機嫌が良さそうな患者さんの顔に近づいたとき、その原因に気づきました。「お酒、飲ませましたね?」と息子さんに尋ねると、少しばつが悪そうに「だって、飲みたい飲みたいって言うから、ちょっとだけ……」とのこと。

 

確かにFさんの嚥下障害は軽度で、頑張ってリハビリをすれば口からもある程度食べたり飲んだりできそうでしたが、リハビリが頑張れず、断念していました。

 

ちょっとくらい、いやちょっとではないかもしれませんが、大好きなお酒だからこそ上手に飲めたのでしょう。病院なら、こんな勝手なことをしたら、即退院させられるかもしれません。しかし、ここは自宅です。好きなように振る舞って良いのです。

 

私たちは指導や助言はできますが、何も強制することはできません。私は、誤嚥を防ぐ安全な飲み方、姿勢や介助の仕方などを助言し、Fさんにとっての適量を一緒に考え、お酒を続けてみることにしました。

 

すると、家族に暴力を振るうほど怒りっぽかったのが嘘のように、いつも笑顔で機嫌良く穏やかに過ごせるようになり、介護する家族みんなの笑顔も戻ってきました。一時は副作用覚悟で鎮静剤を使うことも検討していたのに、まさに結果オーライです。

 

Fさんはその後、さらに認知症が進行して、発語もなくなり、お酒を飲むのも難しくなってきました。そこで家族と相談し、胃ろうから少量のお酒を入れても良いこととしました。

 

効果はてきめんで、険しい表情のときにお酒を入れるとみるみる表情が変わり、笑顔になるとのことでした。どんな病状でも、言葉はなくても「笑いは大事」であると心の底から実感させてくれたケースでした。

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    ※本連載は、宮本謙一氏の著書『在宅医療と「笑い」』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

    在宅医療と「笑い」

    在宅医療と「笑い」

    宮本 謙一

    幻冬舎メディアコンサルティング

    在宅医療は、通院が難しい高齢の慢性疾患の患者さんや、がんの終末期の患者さんなどが、自宅で定期的に丁寧な診察を受けられる便利な制度です。 メリットは大きいのですが、うまくいかないときもあります。 医師や看護師…

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