※画像はイメージです/PIXTA

現在、スモールM&Aが注目を集めています。その背景には「社長の高齢化と後継者難」「中小企業M&A取引の普及」「廃業数の増加」という3つの要因があります。本記事では、それぞれの状況について専門家がくわしく分析していきます。※本記事は『スモールM&A実務ハンドブック』(五十嵐次郎著、中央経済社)より抜粋・再編集したものです。

③廃業数の増加:資産超過&経常黒字でも後継者なく…

東京商工リサーチが公開している調査によると、2019年の事業者の休廃業および解散(以下合わせて休廃業数)が43,348件、倒産が8,383件と、休廃業数が倒産の5.2倍の水準です。また、2019年の事業者の倒産数の推移は、6年前(2013年)に比べ約22%減少している一方、休廃業数は、約24%増加しています。倒産件数は減少傾向が顕著であるのに対し、休廃業数は高水準かつ漸増傾向にあります(図表6参照)。

 

出典)東京商工リサーチ「2019年休廃業・解散企業」動向調査(2020年1月22日)
[図表6]「休廃業・解散」と「倒産」の件数推移 出典)東京商工リサーチ「2019年 休廃業・解散企業」動向調査(2020年1月22日)

 

また、多くの中小企業が資産超過、経常黒字であるにもかかわらず、後継者が不在であるため、廃業を選択せざるを得ない状況が現実となっています。

 

中小企業庁「中小企業白書(2017年版)」によれば、休廃業・解散企業の業績について、黒字(経常利益率0%以上)で廃業した企業の割合は約51%と、半数超の企業が廃業前に黒字であったことを示しています。

 

また、中小企業庁「中小企業の事業承継に関する集中実施期間について」(2017年7月)では、60歳以上の経営者のうち50%超が廃業を予定していますが、廃業予定企業であっても3割の経営者が同業他社よりも良い業績を上げています。後継者難による廃業により、当該企業が保持している優れた技術や熟練したノウハウが失われる可能性が高いことを示しています。

 

さらに、これら中小企業の社長の高齢化による廃業の問題は、日本経済全体に多大な損失を及ぼす可能性が指摘されています(図表7参照)。

 

出典)経済産業省「中小企業・小規模事業者の生産性向上について(2017年10月)p.6 経済産業省・中小企業庁「事業承継・創業政策について」(2019年2月5日)p.1
[図表7]事業承継に関する現状と課題 出典)経済産業省「中小企業・小規模事業者の生産性向上について(2017年10月)p.6
経済産業省・中小企業庁「事業承継・創業政策について」(2019年2月5日)p.1

 

経済産業省「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」(2017年10月)では、今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業全体の約3割)が後継者未定だとしています。

 

現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性を示しています。この現状と問題は、日本経済新聞の朝刊1面でも「大廃業時代の足音」として大きく取り上げられ(出典;日本経済新聞朝刊1面、2017年10月6日)、各方面や関係当局に大きな波紋を及ぼし、それ以降、この廃業問題が取り上げられるきっかけの1つとなりました。

 

 

五十嵐 次郎
ファイブ・アンド・ミライアソシエイツ株式会社

 

 

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