(※写真はイメージです/PIXTA)

小児科医である岩山秀之氏の著書『希望の薬「スピンラザ」』より一部を抜粋・再編集し、難病指定されている脊髄性筋萎縮症について、肺炎をきっかけに罹患が発覚した電動車いすの患者「かけるくん」の症例を紹介します。岩山医師との対話をきっかけに、「遺伝子検査による診断」という選択肢を知ったかけるくんとおばあさんでしたが…。

遺伝子検査で下された、脊髄性筋萎縮症という診断

私は、かけるくんが自分で遺伝子検査を受けたいと言ったことが何よりもお母さんの教育が正しかったことの証明だと思いました。お母さんにそのように伝えたところ、

 

「かけるが遺伝子検査を受けるって決めたなら、私にそれを止める権利はない。でも、かけるが病気だと遺伝子検査で確定してしまうことはすごく怖い。もちろん、歩けないし、手もほとんど動かないから、病気だろうということはわかっている。けれど、それを受け入れることが今まではできなかった。でも、治療ができる可能性があって、それに向かうには遺伝子検査をしなくてはいけないなら、検査を受けさせてあげたいと私も思う」

 

とお答えになりました。そして、お母さんは、

 

「仮に遺伝子検査をして脊髄性筋萎縮症だったとわかったとしても本当に臨床試験を受けられるかどうかわからない。それに自分たちは英語もできないし、実際にアメリカに行くのも大変だ」

 

と心配していました。そして、お母さんが一番知りたいことは、

 

「もし日本で治療が受けられるようになるなら、それは何年後くらいですか?」

 

ということでした。アメリカではまだ重症の1型で臨床試験が行われている状況です。さらにかけるくんのタイプである2型に遺伝子治療の適応が広がり、そのうえで日本でも保険で認められて治療ができるようになるには、長い年月がかかることが予想されました。

 

そのとき、私のなかで具体的な予測というのはなかったのですが、「とりあえず5年から10年後だと思う」と答えた記憶があります。特に根拠はないのですが、その時点でかけるくんが16歳でしたから、5年で20歳、10年で25歳、それくらいまでには治療を開始したいと思いました。

 

脊髄性筋萎縮症の2型は、無治療だと30歳までに半数くらいの方が亡くなるので、それまでに治療が始められたらいいなという希望的観測でした。

 

退院後にもう一度、遺伝子検査を行う意志に変わりがないことを確認し、採血した検体を東京女子医大に送りました。

 

12月に結果が出て、クリスマスの日に説明することになりました。東京女子医大から送られてきた封筒をかけるくんと一緒に開けると、「診断:脊髄性筋萎縮症」と書かれていました。

 

かけるくんとお母さんに、

 

「脊髄性筋萎縮症と診断もついたし、担当を小児神経の先生に変わりましょうか?」

 

と聞いたのですが、

 

「岩山先生を信頼しているのでこのまま担当を変わらないでください」

 

とお答えになりました。

 

かけるくんが遺伝子検査した当時(2015年)は、複雑な病院間の契約を結んだうえで、血液を東京女子医大に送らないと検査ができませんでした。また、遺伝子検査の結果が出るのも2〜3ヵ月くらいかかりました。

 

しかし、今では(2020年現在)、院内の検査室に血液を送れば、特に手続きがなくても検査ができます。血液を提出後、1週間以内に遺伝子検査の結果が出ます。

 

脊髄性筋萎縮症の治療の環境も、検査や治療薬を含めてこの数年でどんどん改善されており、この傾向は今後も続いていくと思います。

 

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岩山秀之

 

1976 年、名古屋市生まれ。
2001年、名古屋大学医学部医学科卒。名古屋掖済会病院で研修後、さまざまな病院で勤務。
2012 年から2015 年までアメリカ・シカゴ大学 にて博士研究員。
2015 年愛知医科大学医学部小児科助教。
2017 年より現職。
専門は小児内分泌学。日本小児科学会専門医・指導医。日本内分泌学会専門医・指導医(小児科)。
最近は脊髄性筋萎縮症の仕事も増えており、日本小児神経学会専門医研修中。

※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『希望の薬「スピンラザ」』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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