「自分のことを知りたい」遺伝子検査を受ける決心
かけるくんとおばあさんは遺伝子検査を受ける気になっていました。しかし問題は、お母さんにどのように遺伝子検査の話をするのかということでした。お母さんに説明せず遺伝子検査を行うわけにはいきません。
お母さんは、かけるくんの今までの経過や病気のことを聞かれると、昔のことを思い出してパニック発作が出る、とカルテに記載されていました。私が担当するまでにも、小児科外来や救急外来でたびたびトラブルになっていました。
そのようなお母さんに、遺伝子検査をやりますとお話しするのはとてもリスクがあります。場合によっては病院にクレームが入り、教授に怒られて始末書を書かないといけないかもしれません。
お母さんに直接話すよりは、まずはお母さんの意向を聞いたほうが無難だろうと考えました。
そこで、遺伝子検査の話を聞きたいかおばあさんからお母さんに聞いてみてもらったところ、とりあえず話は聞いてみたいとのことでした。
かけるくん、お母さん、おばあさんが揃った状況で、遺伝子検査をすれば臨床試験が受けられるかもしれないという話をしました。お母さんは、
「今まで治療があるなんて聞いたことないんですけど、そんなことってあるんですか?」
と半信半疑でした。
もちろん、私も絶対に臨床試験が受けられると思っているわけではないので、何とも言いようがありません。私がそれ以上お母さんに説明することができず困っていたところ、かけるくんが、
「自分のことを知りたいから検査を受けたい」
と言い出しました。
確かに法律的には16歳以上だと自己決定権があり、必ずしも親の同意はなくても遺伝子検査はできます。
このころ、かけるくんは県立高校に通っていて、クラスで3位を取るなど成績は優秀でした。また、かけるくんは、私の話を聞いた後に遺伝子検査を受けるメリットや臨床試験の可能性についてすでに調べて、遺伝子検査を受ける決心をしていたのです。