(※写真はイメージです/PIXTA)

小児科医である岩山秀之氏の著書『希望の薬「スピンラザ」』より一部を抜粋・再編集し、難病指定されている脊髄性筋萎縮症について、肺炎をきっかけに罹患が発覚した電気車椅子の患者「かけるくん」の症例をもとに紹介します。

かけるくんの病名が判明。遺伝子検査の話を伝えると…

こうしてかけるくんで疑われる病名が判明したので、早速、インターネットを開いて、脊髄性筋萎縮症の臨床試験をやっていないか調べたところ、オハイオ大学で臨床試験をやっているということがわかりました。


臨床試験とは、健康なボランティアや患者さんを対象として、薬や検査などの有効性や安全性を確認するための試験です。


しかも、ベクターをつくっている研究室は、私がMCT8異常症で一緒に研究していた研究室でした。オハイオ大学の研究室は、もともと研究していた脊髄性筋萎縮症とともに、レフェトフ教授の研究室とMCT8異常症の遺伝子治療も共同研究していました。

 

その研究室のサイトを開くと、脊髄性筋萎縮症の臨床試験の途中経過が掲載されており、良さそうな結果が出ていました。


ちょうどそのとき、先天的な心臓の病気を持つ2歳か3歳の女の子がいて、その家族がアメリカでの治療費にあてるために募金を集めているという話が新聞に載っていました。


募金を集めてアメリカで心臓の病気を治療できるなら、神経の病気だって治療が受けられるかもしれません。何かうまくいきそうだと思って、すぐに行動に移しました。


その時点での問題は、

(1)どのような流れで脊髄性筋萎縮症と確定診断をするのか、
(2)かけるくんの病気のタイプが臨床試験の対象となっているのか、
(3)アメリカで治療を受けるのに必要な費用を集めることができるのか、

の3点でした。


かけるくんは脊髄性筋萎縮症の2型というタイプでオハイオ大学の臨床試験の対象ではありませんでした。ただ、1型の臨床試験で良好な途中経過が出ていたので、2型も臨床試験の対象になる可能性がありました。


また、アメリカでの治療は保険がきかないため非常に高額になります。最近では、例えば心臓移植だと2億円くらいかかるそうです。それに比べると、脊髄性筋萎縮症の治療では手術が必要なわけではないので、1億円くらいで済むかもしれません。それに臨床試験に参加する場合は、治療費が無料になることもあります。


そのため、さきほどの3つの問題のうち、(2)と(3)は何とかなると思いました。しかし、脊髄性筋萎縮症と確定診断をしない限りは臨床試験にも応募できません。


そこで、まずは医療不信が少なそうなおばあさんと、かけるくん本人に遺伝子検査の話をすることにしました。しかし、最終的にはお母さんに話をする必要があります。


私はおばあさんとかけるくんに、症状から脊髄性筋萎縮症が疑われること、脊髄性筋萎縮症の臨床試験をアメリカでやっていること、募金を集めて臨床試験を受けることも不可能ではないこと、1型では良好な途中経過が出ており2型でも将来的には治療の対象になる可能性があることを説明しました。


二人とも静かに聞いていました。


一通りの説明が終わった後に、おばあさんは、「今までにいろんな専門家と言われる人に診察してもらってきたが、この子が治るとか、治る可能性があるとか言ってくれた先生は、岩山先生が初めてです」と驚いたように言いました。


詳しく話を聞くと、小さいころは療育施設にリハビリのために通っていたのですが、そのときに先生から、「どうせこういう子は良くならないよ」と言われたことがありました。かけるくんのお母さんはそのことがショックで、パニック障害を発症したそうです。


しかし、その時点では私も夢を語っているのに過ぎず、現実的に治療が受けられる可能性は10%もないと思っていました。しかし、10%でも希望があるのとまったく希望がないのでは、かけるくんにも家族にも大きな違いがあると考えて話をしたのです。


かけるくんが入院したのは、夏の暑い時期だったことを覚えています。

 

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岩山秀之

 

1976 年、名古屋市生まれ。
2001年、名古屋大学医学部医学科卒。名古屋掖済会病院で研修後、さまざまな病院で勤務。
2012 年から2015 年までアメリカ・シカゴ大学 にて博士研究員。
2015 年愛知医科大学医学部小児科助教。
2017 年より現職。
専門は小児内分泌学。日本小児科学会専門医・指導医。日本内分泌学会専門医・指導医(小児科)。
最近は脊髄性筋萎縮症の仕事も増えており、日本小児神経学会専門医研修中。

※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『希望の薬「スピンラザ」』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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