(※写真はイメージです/PIXTA)

小児科医である岩山秀之氏の著書『希望の薬「スピンラザ」』より一部を抜粋・再編集し、難病指定されている脊髄性筋萎縮症について、肺炎をきっかけに罹患が発覚した電気車椅子の患者「かけるくん」の症例をもとに紹介します。

脊髄性筋萎縮症の疑い

肺炎で入院した電動車いすの少年、かけるくんですが、抗生剤をすぐに始めたおかげでみるみる良くなりました。翌日には熱も下がって食欲も出てきました。


ただ、私にはかけるくん本人について、もともとの病気が何なのか不思議に思っていました。電動車いすで移動するほど運動障害があるのに、知的には正常という病気を見たことがありませんでした。


一方で、私は小児内分泌というホルモンの病気を専門とする小児科医なので、小児神経の病気は専門外です。そのため、かけるくんが何の病気かわかりませんでした。


幸い、この愛知医科大学小児科の教授は奥村彰久先生という方で、小児神経のエキスパートです。入院した翌日は火曜日で、午後は教授回診があるので、かけるくんも診察をしてもらいました。


診察が終わった後、奥村教授にどのような病気が疑われるか聞いたところ、「たぶん、脊髄性筋萎縮症だろう」とのことでした。


「脊髄性筋萎縮症?」


こんな病名は聞いたことがありません。しかし、奥村先生は一目見ただけで脊髄性筋萎縮症だろうと診断しました。

 

詳しく聞くと、運動障害はあるけど知的には正常、舌がぶるぶると震える(舌攣縮といいます)、表情が乏しい(表情をつくる顔の筋肉が萎縮しているため)といった所見があり、まず間違いないだろうとのことでした。


「英語で言うと、SMA。Spinal Muscular Atrophyだね」


その言葉を聞いたとき、私はあることを思い出しました。


私は2012年11月から2015年3月までアメリカ・シカゴ大学に留学しました。留学先の指導教官はサミュエル・レフェトフという遺伝性甲状腺疾患の大家です。


私は留学先で、レフェトフ教授が発見した疾患の一つであるMCT8異常症という難病の遺伝子治療の研究に取り組みました。その研究では遺伝子を運ばせるためにベクターというものを使うのですが、ちょうど隣の研究室にいたインド人研究者も同じベクターを使っていたので、投与法や各臓器への効果などを一緒に研究していました。


そのインド人研究者が脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療の研究をしていたのです。奥村先生が、「Spinal Muscular Atrophyだね」と言った瞬間、そのことを思い出しました。


アメリカでは「Spinal Muscular Atrophy」として理解していたので、すぐには脊髄性筋萎縮症と「Spinal Muscular Atrophy」が頭のなかで結びつきませんでした。

次ページかけるくんの病名が判明。遺伝子検査の話を伝えると

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    ※本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『希望の薬「スピンラザ」』(幻冬舎MC)より一部を抜粋したものです。最新の法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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