患者家族も驚いた、小児科医の入院判断
慌ててカルテを見直したところ、「本人の病名は診断がついておらず不明である」「母はパニック障害があり、今までの経過を聞くと怒り出す」と記載があります。
診察を始めて10分のところで、先週の金曜日から37度台の発熱があること、夜になると37 度台後半まで熱が高くなること、咳がひどくて痰が絡むことがわかりました。
かけるくんを診察すると、苦しそうに肩で息をしていました。また、ケトン臭といって、水分が十分にとれていなくて脱水になっている患者さんで見られる独特のにおいもありました。
私がかけるくんに苦しくないか聞いたところ、
「苦しくはないがだるい」
と言っていました。
しかし、本人が言っていることとは裏腹に、かけるくんは肩で息をしており、見るからに苦しそうでした。全然大丈夫そうではありません。
そういったことを踏まえてお母さんにかけるくんの様子をお聞きしたところ、
「この子は我慢強い子で、少しくらい苦しくても大丈夫と言います」
とのことでした。
熱は高くないですが、咳をしたときには痰(たん)が絡んで辛そうでした。痰の量も多いようで、咳をするたびにティッシュで口をふいており、その痰の色もまっ黄色でした。
胸の音を診察したところ、水泡音といって肺炎でよく見られる特有の肺の音が聞こえました。
そこで、私がかけるくんとお母さんに、
「肺炎の疑いがあるので入院にします」
とお伝えしたところ、二人とも、
「入院ですか?」と驚いていました。
おそらく、熱が高くなかったので入院する必要があると言われるとは思っていなかったのでしょう。
レントゲンでも肺炎があったので、抗生剤(細菌を殺す薬)を始めました。フィニバックスというカルバペネム系抗生剤を使用しました。普通、カルバペネム系の抗生剤は最初には使わず、いざというときにとっておく秘密兵器です。しかし、このときはかけるくんの状態が悪いと判断し、最初から強力な治療を開始しました。
採血をしていない状況で入院を決定したのですが、結果的にはかけるくんはすぐに病棟に上がって、速やかに抗生剤治療を開始することができました。細菌のなかでも一番増殖速度の速い大腸菌では、20分で倍になります。そのため、重症の肺炎などでは一刻も早く抗生剤治療を始めることが大切です。
このときの入院で、本人の言っていることを過小評価せず、熱や咳などの症状を適切に評価し、速やかに治療を開始できたことが、肺炎の治療のみならず、のちのち遺伝子検査や遺伝子治療を受けることになるかけるくんとお母さんの信頼を得るのに重要だったと考えています。
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岩山秀之
1976 年、名古屋市生まれ。
2001年、名古屋大学医学部医学科卒。名古屋掖済会病院で研修後、さまざまな病院で勤務。
2012 年から2015 年までアメリカ・シカゴ大学 にて博士研究員。
2015 年愛知医科大学医学部小児科助教。
2017 年より現職。
専門は小児内分泌学。日本小児科学会専門医・指導医。日本内分泌学会専門医・指導医(小児科)。
最近は脊髄性筋萎縮症の仕事も増えており、日本小児神経学会専門医研修中。