緊急事態宣言に対する感応度は低下
人流データから緊急事態宣言による人出の抑制効果が弱まっていることが読み取れるが、実際に人々が緊急事態宣言をどのように受け止めているのか、景気ウォッチャー調査を用いて調べた。
景気ウォッチャー調査は、景気動向を敏感に反映する現象を観察できる業種の適当な職種の中から約2,000名にアンケートを実施しているため、人々の緊急事態宣言への感応度を確認することができると考えられる。
景気ウォッチャー調査の結果から、長期間にわたって緊急事態宣言の対象地域となっていた南関東と近畿の結果を取り出し、「緊急事態宣言」「まん延防止等重点措置」という単語を含むコメントが、全コメントに占める割合を示したものが図表4、図表5である。
緊急事態宣言についてコメントした回答数は、20年4、5月が20%程度と小さかったが、これはコメントの大部分が“新型コロナウイルス”という単語を含んでいたことが影響している。新型コロナウイルスの流行初期だったため、人々が緊急事態宣言よりも新型コロナウイルスというワードに強く反応していた。
したがって、コメント数は多くないが、緊急事態宣言への感応度が低かったという訳ではないだろう。その後緊急事態宣言の解除を経て20年末に0%となった後、2度目の緊急事態宣言が発出された21年1月には、関東・近畿ともに40~50%程度に急上昇したものの、2月は宣言の期間中であるにもかかわらず、前月からコメント数が減少している。
コメントの内容を見ると、景気の悪化要因として挙げている割合が2月に大きく低下し、変わらないと答えている割合が上昇している。
この結果、景気の現状判断DIは1月から上昇している。また、4月に再び緊急事態宣言が発出されると、コメント数が再び増加したが、その割合は1月と比べると若干低いほか、悪化要因として挙げている割合も低下している。
さらに、南関東は、東京都が7月に4度目の緊急事態宣言を発令したものの、コメント数は6月から減少している。これらのことから、宣言の期間が長引き、解除と再発令が繰り返されるもとで、緊急事態宣言に対する人々の感応度は徐々に低下しているといえるだろう。
このように日本では緊急事態宣言の発令により感染拡大の抑え込みを図っているが、宣言に対する人々の感応度は低下し、人出の抑制効果はかなり薄まっており、宣言の終わりが見えない状況が続いている。一方で緊急事態宣言下の飲食店などへの営業制限等により、対面型サービス業種を中心とした経済への悪影響も大きい。
ワクチン接種が進む欧米では経済活動の正常化が進展している。イベントは人数制限の規制を撤廃するなど、コロナ禍の影響を大きく受けた対面型サービス業種も持ち直しつつあり、日本に先駆けて経済の回復が進んでいる。
日本ではワクチン接種の開始が欧米に比べて遅れたものの、足元で接種ペースは加速しており、8月末には2回目の接種率が全国民の50%近くに、9月末には60%近くに達する見通しとなっている1。欧米と同様に、経済活動の正常化に向けた議論を進めるためにも、医療体制の拡充が早急に求められるだろう。
藤原 光汰
ニッセイ基礎研究所
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