4度目の緊急事態宣言でも「改善基調」…金メダル27個獲得で「景気が良くなる効果」に期待大

宅森昭吉のエコノミックレポート

4度目の緊急事態宣言でも「改善基調」…金メダル27個獲得で「景気が良くなる効果」に期待大
(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『身近なデータで見た経済動向』を転載したものです。

 

9月のトピック

「新型コロナウイルス感染状況の厳しい状況が続く中でも、緩やかな景気回復は継続。ワクチン接種完了割合の足元の上昇は明るい材料。人々のマインドを上向かせたと思われる東京オリンピック・パラリンピックの日本選手の活躍。7月の自殺者13ヵ月ぶり前年比減少、完全失業率も2.8%へ低下」

7月鉱工業生産指数・前月比▲1.5%の低下。7~9月期は5四半期連続・上昇の可能性大か

鉱工業生産指数・7月分速報値・前月比は▲1.5%と、2ヵ月ぶりに低下となった。全15業種のうち、半導体製造装置などの生産用機械工業など9業種が前月比上昇したものの、自動車工業や電気・情報通信機械工業等の6業種が前月比低下し、全体として低下となった。

 

自動車工業等では、半導体不足が長引いているところに、新型コロナウイルスの感染拡大のためアジア各国で経済活動が制限されたことによる部材調達不足の影響が出たようだ。先行きの鉱工業生産指数、8月分を先行き試算値最頻値前月比(+0.1%)で延長したあと、9月分を製造工業予測指数前月比(+1.0%)で延長すると、7~9月期の前期比は+0.8%の上昇になる。

 

また、8月分・9月分を製造工業予測指数前月比(+3.4%、+1.0%)で延長すると、7~9月期の前期比は+3.0%の上昇になる。7~9月期は5四半期連続の前期比上昇になる可能性が大きいだろう(図表1)。もっとも半導体不足の影響や新型コロナの変異ウイルスの動向などによる、下振れの可能性に注視する必要があろう。

 

8月末ワクチン接種完了割合45.0%に。ワクチンDIからわかる人々の期待の大きさ

新型コロナの変異ウイルスが猛威を振るっていて予断を許さない状況ではあるが、希望はワクチンである。直近、7月の景気ウォッチャー調査で、ワクチン関連先行き判断DIをつくると57.0と、景気判断の分岐点50を大きく上回る。人々のワクチンへの期待感が大きいことがわかる。ワクチン接種が完了した割合が8月31日時点で45.00%になった(図表2、NHKのHPによる)。

 

 

半月前の8月15日時点では36.70%だった。半月で8.30ポイント増加した。このペースが維持されるとすると、10月末には78%程度という数字が期待される。現在G7で一番割合が大きい国はカナダ(66.41%)だが、直近半月での増加テンポ2.99ポイントで増加するとみると、10月末には78%で並ぶ計算になる。新型コロナウイルスの集団免疫に関してはまだ確たることはわかってないようだが、7~8割の人がワクチン接種完了といった状況になれば、新型コロナウイルスの感染状況に明るい変化が生じることを期待したい。

景気の動向を表す指標は、景気動向指数やロイター短観など、改善傾向を示唆している

7月の景気動向指数・一致CIは2ヵ月ぶりに小幅ながら下降になると予測される。しかし、7月分での景気の基調判断は、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」が継続されることになろう。

 

8月ロイター短観は、製造業・業況判断DIが前月から8ポイント改善し+33となり、18年1月(+35)以来の水準に回復した。半導体需要の高まりで化学製品が過去最高を更新した。一方、非製造業DIは+5と前月から8ポイント改善し20年2月(+15)以来の水準になり2ヵ月ぶりにプラスに転じた(図表3)。新型コロナウイルスの感染拡大という厳しい環境下であるが、東京オリンピック関連商品の販売が伸びた企業もみられたという。

 

コメント数が増加するも、もたついた7月景気ウォッチャー調査での「オリンピック」関連DI

新型コロナウイルスの影響で1年間延期された東京オリンピック2020大会は、様々な困難がある中での開催となった。厳しい環境の中で準備を進めてきたアスリートの活躍に勇気づけられた人も多かったとみられる。新型コロナウイルスが収束する兆しが見えない厳しい状況下でも、人々の消費行動や、投資行動にプラスの影響を及ぼしたと思われる。

 

調査期間が7月25日~31日と、東京オリンピック開催期間中に行われた7月の景気ウォッチャー調査で、現状判断DI(季節調整値)は前月比0.8ポイント上昇の48.4と2ヵ月連続で改善した。調査期間中に新規感染者数が急増していたため、現状判断のコメントで新型コロナウイルスに言及したウォッチャーは408人と6月の333人から増加したが、東京都に7月12日に4度目の緊急事態宣言が発令されるという厳しい環境でも改善基調は維持された。ワクチン接種が進んだことも追い風となったようだ。

 

現状判断でオリンピックに触れたウォッチャーは164人で、6月の32人から大きく増加した。しかし、オリンピック関連・現状判断DIは47.4で6月の57.0から低下した。それでも5月の43.8を上回っていて底堅い数字にはなった(図表4)。

 

 

東京都の一般レストラン経営者は「東京オリンピックも、業種によっては好況をもたらしているようだが、外食に関しては新型コロナウイルス感染に対する忌避感があり、客足が遠のいている」とコメントをしている。

 

家電量販店ではテレビなどの販売が増加したようだ。景気ウォッチャー調査では近畿地方・家電量販店のウォッチャーの「梅雨が長引いたため、エアコンの販売量は余り増加していないが、東京オリンピック需要ともいえる、大型テレビや大容量ブルーレイ・ディスクレコーダーなどの販売増加でカバーしている」というコメントがあった。

 

また、日本の若者が金メダルを取ったスケートボードなどへの需要増も出たようだ。アスリートがSNSで「おいしい」と発信した、選手村で出されたものと同じ冷凍食品の餃子や、コンビニのお菓子などへの需要も高まったようだ。

日本は金メダルを史上最多27個。10個の閾値満たし、大会期間中の日経平均株価は上昇

今回の東京オリンピックで日本は金メダルを史上最多27個獲得した。10個目はソフトボール、20個目はスケートボード女子パークで、最後の27個目は野球だった。また、銀メダル14個、銅メダル17個で、総メダル数は58個となりリオデジャネイロ大会の41個を上回りこちらも過去最大になった。58個目のメダルは、女子バスケットの銀メダルである。メダルランキングは第3位。

 

ランキング10位までの国の金メダル数と2020年の世界経済に占める名目GDPのシェアの相関係数は0.861と強い相関がある。またメダル総数と名目GDPシェアの相関関数は0.866だった。選手育成などにお金をかけられる国が強いといえる。また、将来判明する2021年の名目GDPのシェアデータとの相関も強くなることが期待される。金メダルを獲るとその国の人々が元気になって、景気が良くなる効果が生み出されることだろう。

 

日本の金メダル数が2ケタに達した大会は、1968年メキシコ大会以降全て、日経平均株価が大会期間中に上昇した。2ケタになった今回の東京大会は1.2%と低めの上昇率だが大会期間中の日経平均株価上昇は維持された。ちなみに10個に到達しなかった大会は、2012年のロンドン大会を除いて全て大会期間中に下落している。ロンドン大会の金メダルは7個と少なかったが、銀・銅を含めたメダル数が38と当時で史上最多となりマインドに大きくプラスに働いた。金メダル10個が大会期間中の日経平均株価が上昇するか下落するかの閾値と言えよう(図表5)。

 

 

今回のパラリンピック東京大会は8月24日から9月5日まで行われる。日本は8月31日現在、金メダル5個、銀メダル6個、銅メダル11個で、総メダル数22個となっている。メダルランキングは15位である。“パラリンピックの父”と呼ばれるイギリスの病院の医師、ルードウィヒ・グットマン博士(1899~1980)の言葉、「失ったものを数えるな、残されたものを最大限生かせ」が、パラリンピックの精神を最も端的に表していると言われている。この言葉はパラリンピアンに対してだけではなく、パラリンピックをテレビ観戦する多くの国民に対し、コロナ禍という厳しい環境の中にあっても前向きに生きることへのエールとなっていよう。

注目度が高いサッカー男子日本代表の試合結果が翌日の日経平均株価に反映

東京オリンピック2020開会式の関東地区の世帯平均視聴率は56.4%で、1964年東京大会の61.2%に次ぐ高い数字となった。なお、閉会式の視聴率は46.7%とこちらも高い視聴率で、国民の関心の高さが窺える数字である。この大会では視聴率が30%台になった競技が3つあった。

 

まず、8/3(火)の男子サッカー準決勝・スペイン戦。日本テレビで放送され視聴率は30.8%だった。日本が公式競技となって初の金メダルを獲得した8/7(土)野球決勝のアメリカ戦はNHKが放送し、前半は30.4%、後半は37.0%。8/8(日)の大会最終日に行われた男子マラソンはNHKが放送し、前半は23.3%だったが後半上昇し31.4%になった。

 

今回のオリンピック競技の中でも視聴率から見て人々の注目度が高かった、サッカー男子日本代表の試合結果と日経平均株価との間の関係も興味深いものがある。日本代表と翌営業日の日経平均の関係は、これまでのワールドカップなどの結果からも明白だ。例えば、ワールドカップ初出場を決めたジョホールバルの歓喜と言われる1997年11月のイラン戦は視聴率が翌日の日経平均株価が北海道拓殖銀行の経営破綻のニュースにもかかわらず1,200円高の上昇となったことは有名だ。

 

今回の東京オリンピックでも、男子サッカーの視聴率は高く、3戦全勝だった1次リーグの試合が行われた翌営業日の日経平均株価は全て上昇した。2対1で勝った7月25日のメキシコ戦の翌日26日の日経平均株価は前日比285円高だった。4対0で勝った28日のフランス戦の翌日28日の日経平均株価は前日比200円高。ちなみに1対0で勝った22日の南アフリカ戦の翌日は休日だった。

 

試合の後の最初の営業日は26日で、日経平均株価は前日比上昇したことになる。7月31日のニュージーランドとの準々決勝は0対0のあと、PK勝利した。一番近い営業日の8月2日の日経平均株価は前日比497円の上昇だった。8月3日のスペインとの準決勝は延長後半に点を入れられて0対1で惜敗した。翌4日の日経平均株価は前日比57円の下落になった(図表6)。もし、スペイン戦に勝利し史上初の銀メダル以上を確定していたら、日経平均株価の違った展開が待っていたかもしれない。

 

 

なお、開催国のオリンピック開催年・年末の株価前年比をみると、1984年ロスアンゼルス大会以降2016年のリオデジャネイロ大会までの連続する9大会では、上昇が6回、下落が3回とどちらのケースもある。今年はどうなるか注目だ。

7月の完全失業率と有効求人倍率は改善。7月自殺者数は13ヵ月ぶり前年比減少

7月の完全失業率は2.8%と6月から0.1ポイント低下した。小数点2位までみると、2.75%で、今年に入って7ヵ月連続で2%台継続となっている。2021年上半期の完全失業率は2.87%である。最も高かったのが5月の2.97%で、最も低かったのが3月の2.63%である。7月の2.75%は今年2番目の低さである。7月の有効求人倍率も1.15倍と6月から0.02ポイント上昇し、20年5月の1.18倍以来の水準になった。給付金、協力金、雇用調整助成金などの政策効果による下支えで、雇用は底堅く推移している。もっとも、7月は感染力の高いコロナウイルスがまん延していることで、求職活動を手控える動きも出たようだ。

 

7月の雇用統計の改善は、7月の自殺者が13ヵ月ぶり前年比減少と改善したことと一致する。警察庁「自殺統計」の自殺者数と完全失業率の年次データの相関係数は0.911と強い相関がある。新型コロナウイルス感染拡大により2020年の自殺者数は2万1,081人、前年比は+4.5%の増加。完全失業率と同様に11年ぶりに悪化に転じた(図表7)。

 

 

2021年上半期の1ヵ月平均は1,820人だった。前年同期の2020年上半期の同1,596人に比べて14.0%の増加であったが、前期の2020年下半期の同1,917人に比べ▲5.1%と減少になっている。完全失業率と同様の動きである。

 

7月の警察庁の自殺者数暫定値は1,644人にとどまり2020年7月の1,865人から▲11.8%減少した。このままのペースでいけば、2021年下半期の自殺者数は前年同期を下回りそうだ。関連指標の完全失業率も前年同期の3.00%を下回る可能性が大きいだろう。

消費者物価基準改定の影響で現在は前年同月比マイナスの6月分実質賃金が来年はプラスに

総務省は8月20日に発表する2021年7月の消費者物価指数から2020年基準に変更した。変更後もHPの2015年基準の時系列データで直近の7月分も公表されている。

 

2020年基準の7月分の全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合(コア)は前年同月比▲0.2%と12ヵ月連続の下落だが、2015年基準だと前年同月比+0.4%と3ヵ月連続の上昇だ。乖離の理由の主因である通信料(携帯電話)の7月分をみると、2020年基準でウエイトが1万分の271、前年同月比▲39.6%の下落だが、2015年基準でウエイトが1万分の230、前年同月比▲29.1%の下落にとどまっている。寄与度差を計算すると、通信料(携帯電話)により約0.4%強2020年基準を押し下げる要因であることがわかる。

 

7月分の全国消費者物価指数・持家の帰属家賃を除く総合は2020年基準では前年同月比▲0.4%、2015年基準では前年同月比+0.2%で、乖離幅は0.6%ある。ひと月前の6月分をみると、2020年基準では前年同月比▲0.6%、2015年基準では前年同月比+0.2%である。乖離幅は0.8%ある。

 

毎月勤労統計の実質賃金の最新データである6月分の前年同月比は▲0.1%で5ヵ月ぶりの減少になった(図表8)。

 

 

この統計は2015年=100とした統計で、実質化の時に全国消費者物価指数・持家の帰属家賃を除く総合2015年基準をデフレーターとして使っている。2020年=100とした統計では、2020年基準をデフレーターとて使うので、来年になれば、20年6月分の実質賃金の前年同月比はプラスであったということになろう。

今夏も「もののけ姫」など3週連続で放映。今も生きていることが確認された「ジブリの法則」

日本テレビ「金曜ロードショー」でジブリ作品または宮崎駿監督の作品が放映されると、翌週初の営業日の株価が大きく変動するという、いわゆる「ジブリの法則」が10年ほど前に話題になった。米国の雇用統計の発表が原則第1金曜日であることなどが要因と思われる。

 

今年8月にもいつものようにジブリ作品が「もののけ姫」「猫の恩返し」「風立ちぬ」と3週連続で放映されたが、次の月曜日の前日差は全て3ケタになった。今年の8月の21営業日中、前日差が3ケタだったのは13営業日、1ケタあるいは2ケタだったのは8営業日であった。ジブリ作品が放映されて2ケタの変動になったのは2019年8月30日「天空の城ラピュタ」が最後で、以後2年間は全て3ケタの変動である。「ジブリの法則」は近年も生きていることが、確認できた(図表9)。

 

 

コロナ禍での明るい話題は、日本人アスリートの、国民に勇気と希望を与えてくれる海外での活躍だろう。メジャー4年目で投打ともに開花したエンゼルスの大谷翔平が、ベーブ・ルースの再来のような二刀流での大活躍が話題になっている。8月31日時点で投手として先発ローテーションに入り8勝をあげ、打者としては本塁打42本でタイトル争いのトップに立っている。1918年ベーブ・ルース以来の2ケタ勝利、2ケタ本塁打まで、必要なのは、あと投手としての2勝だ。

 

他の身近なデータも順調に推移しているものが多い。例えば、競馬売上高だ。20年のJRA(日本中央競馬会)の売得金は前年比+3.5%と9年連続の増加になった。21年8月29日時点までの累計前年比は+4.8%の増加になっている(図表10)。10年連続上昇に向けて順調に推移している。

 

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『4度目の緊急事態宣言でも「改善基調」…金メダル27個獲得で「景気が良くなる効果」に期待大』を参照)。

 

(2021年9月1日)

 

宅森 昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

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