(※写真はイメージです/PIXTA)

個々人にとっては、自分の利益や安全を担保するための正しい行動も、すべての人が同じことをすると、全体の不利益になることがあります。それを「合成の誤謬」といいます。コロナ禍でのマスク不足は記憶に新しいところですが、じつは株価の暴落、日本の20年以上にわたる長期の景気低迷にも、同じメカニズムが働いていると考えられます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

バブル崩壊後の低迷も「合成の誤謬」によるもの?

合成の誤謬によって景気が悪化する可能性もあります。人々が豊かになろうと思ったとき、正しい行動は「懸命に働いて倹約する」ことですね。

 

しかし、すべての人が懸命に働くと、多くの物(財およびサービス、以下同様)が生産され、すべての人が倹約すると少ししか物が売れないので、物が売れ残ります。

 

すると企業は生産を減らし、労働者を減らします。解雇された労働者は所得がないので物が買えません。したがって、企業は一層物が売れなくなるので一層生産を減らして労働者を減らします。悪循環です。

 

解雇された労働者が貧しくなるだけではありません。解雇されなかった労働者も貧しくなるのです。「給料は減らします。嫌なら貴君をクビにして、失業している人を代わりに雇います」と言えば、「わかりました。給料は減ってもよいのでクビにはしないで下さい」と言うでしょうから。

 

これも、悪循環ですから、事態がどこまでも悪化していく可能性は否定できません。政府が景気対策(金融緩和や公共投資など)を頑張るので、無限に悪化していくことは無いのでしょうが。

 

じつは、バブル崩壊後の長期低迷期、日本の景気がずっと冴えなかった最大の理由は、日本人が頑張って働き、倹約に努めたことだったのだろうと筆者は考えています。

 

高度成長期には頑張って働いて倹約に努めたから新しい工場を大量に建てることができたわけですが、バブル崩壊後の長期低迷期には新しい工場を建てる必要があまり無かったので、作った物が余ってしまった、ということでしょう。

 

今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

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