MK社長「そろそろロータリークラブに入る齢だね」
いまから四半世紀くらい前のある年(1998年)、その5月の連休明けにかねてより親しくしていたMK社長(建材商社)が、僕の営む会計事務所にやってきた。
私を見ると開口一番、「田中君はいくつになった?」「41歳です」と答えると、「そろそろロータリークラブに入る齢だね」「私も入っている高崎ロータリークラブで新会員を探している。簡単な面接があるけど、君ならば大丈夫だろう。私が推薦人になってあげよう」
ロータリークラブ? 何だ、それは?
さらに、「1業種から1人という決まりがあるけど、君は税理士のほかに大学教授という肩書きがあるから、そっちの職業で入ればいい」とわけの分からないことを言っている。1業種から1人だけ? そのクラブには同業者は何人も入れないのか? というと最近流行りの異業種交流会の一種ということかな?
「力のある友だちがたくさん出来るよ」とも言っている。
東京から地元の群馬県高崎市に戻ってきて10年ほど経つけど、地元にあまり友人はいない。日々の「雨ニモマケタ風ニモマケタ雪ニモ夏ノ暑サニモマケタ」不良生活から脱けられるかもしれないかな?
「絶対、入って損はないよ」
「言ってくれるなあ」と思った。でも、もしかしたらこれは楽しいことのハジマリになるかもな? その後、彼はいろいろなことをレクチャーしてくれた。
知られざる「ロータリークラブ」の決まりごと
(1)「会合(「例会」というらしい)は週1回(週1回の例会開催は弾力化された。月2回以上の開催があれば良くなった)1時間、お昼どきに食事をとりながら仲間と歓談する。また世の中の識者を呼んで、さまざまな講話を聞くこともある(これを「卓話」と呼んでいた)」
MK社長いわく、「誰だってお昼は食べるだろ? それを皆と一緒に食べるだけのことさ。コスパは少し割高だけどね」どうも、会費が高いことを暗示しているようだ。
(2)「『一業一人制』(いまでは同業種から5人までまたはクラブの会員数の10%までの同業者の入会が可能になった)という決まりがある」
彼いわく、「うちのクラブには税理士さんはすでに1人いるから、君はその職業では入れないので大学教授の方を使おう。会員としての入会資格は、社長や専務のような会社を代表する立場の人でなければ入れないのだよ。大会社の偉い人もたくさんいる。めったに知り合えない知人がたくさん出来るよ」また、「誰もが入れるクラブではない。選ばれた人たちだけが入れるんだよ」と高級感、ブランド感を強調した。
(3)「でも、一度入ったら簡単には辞められない。辞められるのは、本人が死んだときか会社が倒産したときだけだ」彼いわく、「ロータリークラブは大人の会だ。あまり若い人はいない。君が40歳を超えたと聞いたから誘っている。大人は、自分で決めたことは簡単に覆してはならない。簡単に辞める子供みたいなヤツとレッテルを貼られるとその後の仕事に差し障りが出るよ」と恐ろしいことを言う。
(4)「ロータリーに入ったら、会員が果たすべき義務はたった3つだけだ。例会に出席(例会を欠席した場合には、他クラブに出席することでそれを補填する「メーク」という方法がある)すること、会費を払うこと、機関誌(『ロータリーの友』という月刊誌)を読むこと。これだけを守れば、君も立派な『ロータリアン』になれる」どうやら、ロータリークラブの会員を「ロータリアン」と呼ぶらしい。
(5)「ロータリークラブの活動は、地域社会への奉仕活動が中心だ。いろいろなことが経験できるから、成人した大人としてクラブに参加することは意味あることだ。仕事が出来る人は、慈善活動(奉仕)をすることで社会に貢献しなければいけない。君が一皮剥むけるチャンスだ」これは、単純にいい話だと思った。彼が人を誘うときの殺し文句に違いない。しかし、話の端々に「奉仕」という言葉がたくさん出てくる。不思議な言葉だなと思った。
そこまで言うと、彼はカバンから「入会申込書」を出してきた。ここにいますぐサインをしろと言う。まあ、彼は悪い人ではないし、地元に仲間を作っていくのも楽しそうだな、と思って言われるままにサインをした。彼は満面の笑顔で言った。
「これほど簡単に入ってくれる人には初めて会った。君は決断力がある。きっと君はロータリーが大好きになるよ」と予言してくれた。
「ロータリーに入ったら、誰に何を言われても答えはコレしかない」
「『ハイ!』か、『イエス!』か、『喜んで!』だけだ」
と面白いことを言って帰っていった。後日、面接の日程を連絡する、と言い残して。