生産緑地の所有者がとるべき対処法
多くの生産緑地は、指定から30年が経過する2022年以降、次の3つのいずれかの対処法を選ぶことになります。
①買取の申出をして土地を売却・活用する
農業をやめて土地を売却すればまとまった売却代金が得られます。また、賃貸アパートや駐車場など他の用途で活用すれば賃料収入が得られます。その他、自宅の敷地として活用するなど様々な方法で有効活用をすることが可能となります。
しかし、相続税や固定資産税の負担が大きく増えることに注意が必要です。
相続税の納税猶予の特例を受けている場合は、農業をやめた時点で猶予されていた相続税を納めなければなりません。相続税に加えて、もともとの相続税の納期限から起算した利子税も支払わなければなりません。固定資産税は宅地並みに課税され、場合によっては、税額が100倍以上に膨れあがることもあります。
したがって、この方法を検討する際は、このような税負担も含めた有効活用後の資金繰りも考慮に入れて検討することが大切です。
②特定生産緑地の指定を受けて農業を続ける
後継者がいて農業を続ける場合は、特定生産緑地の指定を受けた方が得策です。次の項目でもお伝えしますが、特定生産緑地の指定を受けなければ、後継者に相続するときに相続税の納税猶予が受けられません。後継者の代まで農業を続け、納税猶予を受けたい場合には特定生産緑地の指定を受けることが必要です。
その他、固定資産税についても農地並み課税が維持されることから、今まで通り税制上のメリットを受けることができます。10年間農業の継続が義務付けられるというデメリットはあるものの、最低でも今後10年以上、または、上記の通り後継者の代まで農業を続けていく予定がある場合には適した方法と言えるでしょう。
③特定生産緑地の指定を受けずに農業を続ける
特定生産緑地の指定を受けずに農業を続けることも対処法の一つです。ただし、すぐに売却や転用はしないものの後継者がおらず、近い将来(10年以内に)農業をやめることが予定されている場合に適した方法となります。
特定生産緑地の指定を受けない場合、②の方法と比べ、10年間農業の継続が義務付けられることはないというメリットがある一方で、いつでも売却や転用ができるため税制上のデメリットが発生します。
相続税の納税猶予を受けている場合は、現在の所有者が農業を続けている間は引き続き猶予されますが、後継者への相続では納税猶予が受けられません。
ただし、①の場合は、買取の申出をした時点で納税猶予が即打ち切りとなるのに対し、こちらの場合は、現在受けている納税猶予はそのまま継続されますが、代が替わり、後継者に贈与や相続で農地が移転した時に、新しく納税猶予の適用ができなくなるという点で、①と比べ税制上のデメリットは多少緩和されているということができます。
また、固定資産税は宅地並みの水準まで5分の1ずつ5年間かけて段階的に引き上げられます。
これも、①の場合はこのような段階的な引き上げがないことを考えると、①と比べ税制上のデメリットが緩和されているということができるでしょう。
以上のことから、農業を辞め、買取の申出を行うタイミングは、現在受けている納税猶予が打ち切りとなってしまう*ことや固定資産税の段階的引き上げの状況などを加味しながら、慎重に検討する必要があります。
*既に適用を受けている納税猶予の場合、「20年間農業を続けた時点で相続税が免除される」場合もあるため、税理士に相談の上、該当する場合はこのタイミングも考慮することが必要です。
対処法の決定にはシミュレーションが必要
2022年には多くの生産緑地が指定から30年を経過し、いつでも買取の申出を経て売却や転用ができるようになります。しかし、買取の申出をすると、これまで受けていた相続税の納税猶予などの税制上の優遇は受けられなくなります。
生産緑地の所有者は、農地を売却・転用するか農業を続けるかの選択を迫られますが、それぞれのメリット、デメリットをしっかりと把握したうえで、ご自身の状況と照らしながら慎重に判断することが大切です。
その際、税制上のメリット、デメリットの影響はとても大きく、この判断を誤ってしまうと非常に多額の税負担が発生してしまう危険性もあることから、必ず税理士に相談し、綿密なシミュレーションを行ったうえで、判断することが必要です。
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