※写真はイメージです/PIXTA

事業承継において、株式を買い取る場合はその買い取り費用、相続や贈与による場合は各種税の支払いなど、後継者は多額の負担を求められるケースがあります。しかも、納税資金は現金で支払わなければならないことから、その現金をどうやって用意するのかという問題は、事業継承を控えた経営者にとって悩みのタネとなってしまいます。そこで、税法の「特例」を利用して、事業承継の費用負担を軽減する方法についてみていきましょう。

株を会社が買い取って「金庫株」とする

自社株式を後継者が集中して相続した場合の納税資金が問題になるケースにおいて、それを解決する方法の一つが「金庫株(自己株式の取得)」です。

 

金庫株とは、会社が目的の制限なしに自社株式を株主から買い取って保有しておくことを指します。会社が株式を取得する目的の制限がないので、償却をしてもいいし、ストックオプションなどに使ってもいいし、そのまま保有していてもいいということになります。

 

一方、株式を売却した相続人(後継者)にとっては、その売却代金を納税資金に充てることができます。

 

金庫株のポイントは、相続に際して相続人が自社株式を会社に売却する場合には、一定の条件のもとで、その売却益への課税について「金庫株の特例(相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の特例)」という特例措置が設けられている点です。

 

この特例措置により、相続人の課税が軽減されるメリットがあるのです。

 

まず自社株式を会社に売った際の、原則的な課税方法を説明します。

 

今、オーナーが出資した資本金が1億円、株式評価額の合計(時価総額)が10億円の会社のオーナーに相続が発生し、後継者が100%の株式を相続したとします。仮に、後継者がその自社株式を100%会社に売ったとしたら、税務上、後継者の利益はいくらになるでしょうか?

 

資本金の1億円は、創業者が会社設立時に出資したお金を「払い戻し」してもらっただけだと考えられるため利益には含まれず、出資金額より増えた部分の9億円が利益として課税されます。もし相続した株式の10%(1億円分)を会社に売ったとしたら、按分計算により、9000万円が課税対象ということになります。

 

ここで注意すべきなのが、利益の9000万円は株主として受ける配当に近い性格だと見なされ、上場株式を売却したときのような「株式譲渡益」ではなく「みなし配当」と呼ばれる方式で課税されるのが、税法のルールだということです。

 

[図表]資本金1億円、時価総額10億円の会社オーナーに相続が発生した場合

 

株式譲渡益課税であれば、所得税・復興特別税・住民税をあわせて20.315%の税率で他の所得とは分離された分離課税になります。

 

ところが、みなし配当課税の場合は、給与や事業所得など他の所得と合算されて計算される「総合課税」になり、所得税等の最高税率は55.945%にも上ります。

 

しかし、後継者が納税資金準備のために自社株式を売るときまでみなし配当課税を適用するのは酷だろうということで、金庫株の特例の措置が用意されました。

 

これは、相続により株式を取得した者等が、一定期間内にその株式を金庫株として会社に譲渡した場合は、その全額に対してみなし配当課税ではなく株式譲渡益課税が適用されるというものです。

 

さらに金庫株特例とは別の制度で、「取得費加算の特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)」という制度があります。

 

これは、相続により取得した不動産や株式などを、一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができるという特例です。

 

先の例でいうなら、1億円の売却対価にして、資本金部分の1000万円に、さらに一定金額がプラスされた分の残りが取得費となり、残りが課税対象になるということです(取得費加算の計算方法は複雑なので、ここでは省きます)。

 

ただし、金庫株の特例も、取得費加算の特例も、以下の条件があります。

 

・適用できるのは、相続税が課される者(相続税非課税の場合は適用できない)。

・相続が発生した翌日から、相続税の申告期限の3年後(相続から3年10カ月後)までに譲渡が行われていること。

・金庫株の特例については、会社に配当可能な利益があること。

 

この2つの特例を活用できれば、自社株式を集中して相続した後継者の納税資金確保はかなり楽になるでしょう。

 

 

税理士法人 チェスター

 

 

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