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早期から後継者に株を渡す方法はあるのか
事業承継対策を難しくしているポイントの一つに、相続はいつ発生するか事前に予測できない点があります。相続が発生した時点で、たまたま業績が非常に良ければ株価は高騰しているかもしれません。
逆に、業績が非常に悪化していて、金庫株で買い取ってほしくても会社で現金が用意できない、死亡退職金も支払えない、という状況になっているかもしれません。経済的な面だけではなく、経営を任せられるくらいに後継者の育成が進んでいるのかも分かりません。
相続には、こういった事前予測の困難性があるため、やはり可能であれば、オーナーの存命中にタイミングをしっかり計って株式を移転できるほうがベターです。
そこで、相続の発生前に株式を移転するための代表的な方法について解説します。いずれも、よく用いられているおり、また、他の株価対策と併用可能な場合も多いので、基本として知っておいていただきたい方法です。
「毎年の暦年贈与」による株式の移転
人から人に財産が贈与された場合、受贈者(贈与を受けた人)に贈与税が課されるのが原則です。しかし、受贈者1人について、1年間で110万円以下の贈与については、贈与税が非課税とされます。渡す人ごとではく、受贈者ごとの適用なので、例えば1人の子どもが父と母のそれぞれから贈与を受けた場合、合計して110万円までが非課税という計算です。
この毎年の非課税枠を利用した贈与を「暦年贈与」といいます。自社株式の贈与にも贈与税は課されますが暦年贈与が適用できるため、長い年月をかけて少しずつ後継者に株式を移転していくことは、事業承継において最もポピュラーな方法であるといえます。
暦年贈与の非課税枠は110万円なので、最大でも10年で1100万円分、20年かけても2200万円分しか枠内では移転できません。中小企業でも株価評価が数億円になることは普通なので、暦年贈与を使うだけですべての株式を移転させようと考えるのは非現実的です。
そこで例えば、年間500万円分の自社株式を後継者に贈与すれば、110万円分は非課税で、390万円分が課税されることになります。贈与税は子が自分のお金で支払ってもいいですし、贈与税の納税額分は株とは別に現金で贈与するという方法もあります。
暦年贈与のメリットは、110万円の非課税枠が使えることだけではありません。一般的に企業が成長していくものであることを前提とすれば、その株価は毎年が上がっていきます。
つまり、早期に贈与をすればするほど、同じ贈与額でも多くの株式数を移転できる(同じ株式数であれば少ない贈与金額で移転できる)ことになります。そのため、早期から贈与をすればするほど、移転コストが低くなります。
一方、暦年贈与で早期からの株式の移転をする場合の注意点も知っておきましょう。
まず、贈与税は累進課税であり贈与金額が大きくなると、税率が高くなる(最高55.945%)ので株価対策をして相続したほうが、結果的に税負担が軽くなることもあり得ます。毎年いくら贈与しどれくらいの課税額になるのか、シミュレーションが重要です。
また、受贈者(子)が、確実に後継者になるとは限らないという点もポイントです。受贈者の意志がはっきりと固まらない時から贈与を開始してしまうと、受贈者に状況の変化や心変わりが生じる可能性が高くなります。
場合によっては、受贈者が親より先に亡くなることもあり得ます。すると、経営権を巡るトラブルが生じたり、再移転のための余計なコストが発生したりします。そのため、後継意志の見極めは重要なポイントになります。
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