自分の引退後の生活資金をなるべく多く残すには?
オーナー経営者のなかには、自社株式と自宅不動産が個人資産の多くを占めていて、個人の金融資産をあまり保有していないという方も少なくありません。それは、現役時代には、個人資産も事業のために用いている場合があるからです。
また、個人の所得税よりも法人税のほうが税率は低いため、役員報酬を多額に得るよりも、法人の所得にして内部留保を進めている場合もあります。
しかし、オーナーが何歳で引退するのかにもよりますが、引退後に余裕のある生活を楽しむためには、一定のまとまった現預金が必要になります。なかには、それまでは忙しくてできなかった夫婦での世界旅行など、費用のかかる趣味を楽しみたい場合もあるでしょう。
事業承継に際して、長年の経営に対する功労という意味も含めて、一定の報酬を得ることは決して悪いことではありません。しかし、そのもらい方を間違えると、思わぬ課税などの弊害が生じることもあるので、十分に配慮した計画が必要です。
役員退職金を「なるべく多く」受け取る
役員退職金については、オーナーがなるべく多くの退職金を得るという観点から検討します。
まず、役員退職金については、法人での損金算入と、個人の所得税という両面を分けて考えることが必要です。
税務上、法人が支払う役員退職金の適正額は、次の算式による「功績倍率法」によって求めるのが一般的です。
最終報酬月額×勤続年数(役員在任期間)×功績倍率
最終報酬月額が100万円、役員在任期間が30年、功績倍率が3倍なら9000万円ということです。ただし、最終報酬月額は、最終年度だけ役員報酬を増額するといった方法を考えることもできます。
また功績倍率も、一般的には代表取締役の場合は3倍だといわれることもありますが、法的根拠があるわけではありません。ただ会社の業績や同業他社の水準と比較して、極端に高額の役員報酬は、高額な部分の損金算入を否認されることがあるので、これについては顧問税理士と事前によく相談することが必要です。
一方、個人の所得税において、退職所得は他の所得とは分離される分離課税で、控除額が大きいため、多額の退職金を受け取っても役員報酬に比べて、課税額は低くなります。課税される退職所得は次の算式により求められます。
(退職手当支給額−退職所得控除)×1/2
退職所得控除は、勤続年数20年以下の部分は、勤続年数×40万円、20年超の部分は勤続年数×70万円です。勤続年数30年なら(20×40万円)+(10年×70万円)=1500万円となります。
退職手当が9000万円だとすると、(9000万円-1500万円)×1/2=3750万円が課税退職所得金額になります。これに対する税額は約1220万円(別途、復興特別税および住民税あり)なので、支給額に対する税率は約13.5%と、非常に低くなります。
ここでポイントは、法人の損金算入と、個人の退職所得課税は関係ないということです。つまり、高額な退職金を支給して、仮に法人においては高額部分の損金算入できなかったとしても、個人の所得税の計算においては全額が退職所得して計算されます。
そこで、法人に支払い余力(十分なキャッシュフロー)があるのなら、損金算入されないことを承知のうえで、あえて高額な退職金を支給することも選択肢となるでしょう。
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