「エージェント・ベーシストモデル」を活用すると…
伝統的ファイナンス理論をベースとしたファンダメンタルズ分析の“一強時代”から、インデックス運用とともに行動ファイナンス、テクニカル、AI、ESG、その他多様な運用手法・戦略が群雄割拠する”戦略分散の時代”に入ったと言われて久しい。
しかし、上記のエージェント・ベーストモデルを活用すれば、旧来、合理的で金融市場の望ましい投資主体として捉えられていたファンダメンタル派の投資家が、(様々な戦略を持つ)非ファンダメンタル投資家によって時間とともに排除・駆逐されてしまう分析結果が出てしまう可能性もあろう。そのような世界では、ファンダメンタルバリューにはない価格帯での取引が頻繁に行われるとみられる。
また、時間の経過とともに自然淘汰の原理からファンダメンタル派の影響度が低下することで、勝ち残った投資家(戦略)が重視している価格帯での取引に収れんする可能性、つまりファンダメンタルバリューから恒常的に乖離した水準で価格が推移・均衡してしまう可能性も排除できないだろう(今後の様々なエージェント・ベーストモデルの実証結果が待たれるところである)。
これは「アクティブ投資家(ファンド)vs. アクティブ投資家(ファンド)」だけの話ではなく、「アクティブ投資家(ファンド)vs. パッシブ投資家(ファンド)」の話にも当てはまる。
世界全体の運用残高の推移を見ると、インデックス・パッシブファンドがファンダメンタルズ分析を活用するアクティブファンドを急速に追い上げている。
先のエージェント・ベーストモデルで言えば、インデックス・パッシブファンドにおいては、業績やバリュエーションとは関係なく、概ね時価総額(浮動株調整後含む)に比例した売買が機械的に入ってしまうことで、ファンダメンタルバリューから乖離した価格で継続して取引される世界になってしまっている可能性もあろう。
その過程でファンダメンタル派が自然淘汰されることで市場の価格発見機能が低下し、一段と価格形成の歪みがもたらされる(またはもたらされている)可能性は排除できない。
■まとめ
繰り返しになるが、現在は様々な戦略が群雄割拠する”戦略分散時代”に入っていると言われている。だからこそ、ファンダメンタルズタイプの伝統的戦略だけでなく、インデックス・パッシブファンドや様々な他の投資戦略を駆使するヘッジファンドなどをポートフォリオに総合的に加えることで、大きな時代の流れに対応した資産運用を行うことも重要だと考える。
中村 貴司
東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
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