(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)への取材レポートです。今回は、ヘッジファンドなどの運用戦略のベースにもなる「エージェント・ベーストモデル」について見ていきます。

「エージェント・ベーシストモデル」とは?

そもそも「エージェント・ベーストモデル」とは、ミクロな挙動からマクロな挙動を説明しようと試みるボトムアップアプローチモデルのことである。コンピュータによるモデルの一種で、自律的なエージェントの行為・行動と相互作用を、システム全体に与える影響を評価するためにシミュレートするものと言えよう。

 

エージェント・ベーストモデルは、ルールに従って動的に相互作用を行うエージェントから構成され、複数のエージェントがその内で相互作用するシステムにおいて、現実の金融市場のような複雑性を創り出す。

 

このモデルは、定常状態に焦点を合わせるよりも、システムの複雑性により、内外からの圧力にどのように適応するかを取り扱う。この複雑性を効果的に活用するためには、エージェントの多様性や相互作用の水準などが必要となる。

 

このエージェント・ベーストモデルは、これまで伝統的ファイナンス理論では見出すことができなかった金融市場や経済市場での事象を解き明かす一つの研究・分析手法と捉えられている。

 

具体的には、効率的市場においては、自然淘汰の原理により、合理的な投資家は合理的ではない投資家を淘汰・駆逐することが想定される。わかりやすく言えば、ファンダメンタルズ分析に基づく合理的な投資家が生き残り、過去のデータやチャートなどからトレンドを予測するようなテクニカル分析に基づく合理的とはいえない投資家(いわゆるノイズトレーダー)が市場から排除されると考えている。

 

市場の効率性があるがために、合理的な投資家が勝ち残る一方、ファンダメンタルズ分析を用いる合理的な投資家が市場価格に影響を与えるがために市場の効率性を達成できるとの依存関係がある。これは、効率的市場仮説が、市場は効率的で投資家は合理的(正確には合理的期待を持つ)との前提・仮定に基づいていると言われる所以である。

 

どちらか一方の仮定が成り立たないような場合には、ノイズトレーダーが排除されない可能性が出てくると共に、逆に合理的な投資家といわれるファンダメンタルズ派が駆逐されてしまう可能性が残ってしまうのである。

 

そのような可能性を示唆したのが、ファンダメンタル派とテクニカル派(ここではトレンド分析を活用)の投資家を用いたエージェント・ベーストモデルの実証結果である。

 

実証結果においては、次の2つのことが示されている。

 

(Ⅰ)ファンダメンタル派とテクニカル派の投資家が同数市場に存在するとした場合、取引価格はファンダメンタルバリューと一致し、テクニカル派を排除し、ファンダメンタル派が生き残ったこと。

(Ⅱ)テクニカル派が極端に市場に存在する場合や、リスク資産への投資比率に制約がある場合(たとえば、ポートフォリオにおけるセクターや組入れ資産のウェイト付けに制限があるような場合)、取引価格がファンダメンタルバリューから大幅に乖離し、テクニカル派が超過収益を獲得し、ファンダメンタル派が排除されるケースが頻繁に生じたこと。

 

つまり、非合理的な投資家とみなされてきたノイズトレーダー=テクニカル投資家が収益を上げ、市場で生き残る可能性を示しており、このような分析結果はトレンドフォロー戦略の活用やヘッジファンドのCTAをポートフォリオに組み込む補強材料の一つになっているということだ。

 

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このレポートは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたもので、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断の最終決定は、お客様自身の判断でなさるようお願いいたします。このレポートは、信頼できると考えられる情報に基づいて作成されていますが、東海東京調査センターおよび東海東京証券は、その正確性及び完全性に関して責任を負うものではありません。なお、このレポートに記載された意見は、作成日における判断です。

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