「経営計画のない経営」がもたらすトラブル
●同じミスのループ
経営計画やマニュアルの定まらない工場では、忙しく働いているようには見えますが、生産するうえで不適合(作った物が検査などの基準を満たしていないこと)が発生したり、取引先からクレームが発生しています。
そうした場合の対応は、優先的に、ただ手直しをして終わりにしています。同じ不適合やクレームが起きないようにする再発防止策は考えられていません。さらにそうした不適合やクレームが過去にいつ発生したという記録も残していないため、同じような事態がくり返されます。
●引き継ぎができない
また、工場内では熟練の作業員と一緒に若手の作業員が作業をしていますが、熟練の作業員は黙々と作業しています。その傍(はた)で、若手の作業員が見ている様子がうかがえます。そうした姿について社長にお聞きすると、「熟練の作業員の作業の妨げにならないように傍で作業を見て、その方法を覚えています」と言います。
社員教育が徒弟制度のようになっており、後輩が先輩を見て覚えているのです。作業手順書もないのでそうするしかないとのことでしたがこれでは仕事を覚えるのに相当な時間がかかります。熟練の作業員が定年などで退職する際は、仕事の引き継ぎができなくて四苦八苦しているそうです。
●誰かひとりしか知らない人事と経理
人事でも、賃金を社長ひとりで決定していることが多く見られます。ひとりで評価するのが難しい人数でも、社長は部門長にヒアリングなどをして評価しています。このため、社長は目に見える部分しか評価せず、片寄った評価も発生しています。
経理では、決算書などの会社の計数にかかわるものは税理士に任せているので、社長からは「詳しいことは顧問税理士に聞いてください」と言われます。社長本人から経営実態についての計数の説明がなく、これでは、社長が経営上の数字の問題点を本当につかんでいるのか疑問です。
さらに事業承継が必要になってきた場合でも、会社の運営に必要な経営計画や取引先情報、技術・技能などの整備ができていないためにスムーズに事業の引き継ぎが進みません。
【ワンポイント】
何をやるべきかルールがないので、その都度判断するしかない。
具体的行動:
経営計画や会社のルールを整備して、ムダのない行動をしよう。
仕事をスムーズに動かす「経営の仕組み」20個
前述のような問題を解消するために、経営にさまざまな「仕組み」を取り入れていきます。
①経営部門
経営計画を仕組みとして取り入れます。経営計画策定は、会社の経営ビジョンを達成するためのシナリオを書くことであり、確実に経営ビジョンの達成に向かうことができます。
②全部門共通
5S、改善提案制度、経営会議を仕組みとして取り入れます。特に5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾〔しつけ〕)は、環境整備活動で、会社の柱となるものです。
③営業部門
営業日報、顧客台帳、顧客アプローチリスト、提案書を仕組みとして取り入れます。
④製造・建設部門
作業手順書、外注管理、購入管理、品質向上委員会を仕組みとして取り入れます。
⑤総務部門
賃金体系、人事考課、目標管理、社員教育を仕組みとして取り入れます。
⑥経理部門
予算管理、実行予算管理、資金繰り管理、決算書分析を仕組みとして取り入れます。
取り入れるべき仕組みの全体像は、【図表】のとおりです。
【ワンポイント】
仕組みを表した書類があると、そのもとで安心して仕事ができる。
具体的行動:
計画や制度化を仕組み(書類)という形で提示することで誰でもできる仕事にしよう。
宮内 健次
中小企業診断士、社会保険労務士