(※画像はイメージです/PIXTA)

福祉の現場は綺麗事ではすまされません。私たちが考えがちな「義務感」や「正義感」などではなく、困難にある他者に手を差し伸べたいという「衝動」が、人を福祉に走らせる根源的な理由だといいます。このような「衝動」が必要だと山口周氏は語ります。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

なぜ「福祉は衝動である」なのか

■「衝動にシステムをリ・ハックさせる」

 

社会福祉に長らく関わられた横浜市立大学名誉教授の加藤彰彦先生は、最終講義において「福祉は衝動である」という言葉を伝えています。「福祉」という言葉からなかなか「衝動」を連想する人はいないでしょう。これはどういう意味なのでしょうか。

 

福祉というものの現場は綺麗事ではすまされません。私たちが「福祉に携わっている」と聞けば、多くの場合「正義感や義務感から、辛く苦しい仕事を率先して背負っている」といったステロタイプな判断をしてしまいがちです。しかし加藤先生は、長らく携わった福祉の厳しい現場を知った上でなお「福祉は衝動である」と言っているのです。

 

私たちが考えがちな「義務感」や「正義感」などではなく、困難にある他者に手を差し伸べたい、そのような人と一緒に生きていきたいという「衝動」が、人を福祉に走らせる本源的な理由なのだと、加藤先生は言っているのです。

 

あるいは病気や身体障がいなどの理由で、外出することが困難な状況にある人々に対して、自身の分身となって制約がなければ行きたい場所に移動し、その場にいるようなコミュニケーションを実現する分身ロボット「Ori Hime(オリヒメ)」を開発し、「分身による社会参加」を世界中に広めようとしている吉藤健太朗さんの取り組みもまた、彼自身の衝動によって駆動されています。

 

吉藤さんがこのような取り組みに身を投じた理由は実にシンプルで、それは「かつての自分のような苦しみを味わう人を増やしたくない」というものです。吉藤さんは、自身が小学校から中学校にかけて数年間の不登校を経験し、そこで地獄のような孤独を味わったと言っています。自分自身が経験したあのような辛い孤独を子供たちに味わわせたくない、孤独を社会から消していきたいという「衝動」が、彼の研究開発の大きなモチベーションとなっているのです。

 

ケインズが彼の主著である『雇用・利子および貨幣の一般理論』において、経済が「数学的期待値のような合理的な理由」によってではなく、「人間性に根ざした衝動」によって駆動している、と指摘したことはすでに紹介しました。ケインズが生きていた19世紀後半から20世紀前半は、人類史においてもっともインパクトの大きいイノベーションが続出した第二次産業革命の時期です。そのような時代に生きたケインズが、イノベーションを促進させる要因として「人間性に根ざした衝動」を第一に挙げているのです。

 

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ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す

山口 周

プレジデント社

ビジネスはその歴史的使命をすでに終えているのではないか? 21世紀を生きる私たちの課せられた仕事は、過去のノスタルジーに引きずられて終了しつつある「経済成長」というゲームに不毛な延命・蘇生措置を施すことではない…

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