自分の衝動に突き動かされる行動ができるか
一方、今日のビジネスの世界を顧みてみれば、新規事業の検討に際し、徹底して「数学的期待値」や「数量化された利得に数量化された確率をかけた加重平均」が意思決定の根拠として求められていることが思い出されます。しかも、一般にエリートと言われる、高い教育水準を受けている人ほど、この手のプロトコルに強く縛られてしまう傾向があります。これは社会資源の活用という観点から考えると恐ろしい機会費用です。
誤解のないようにしておきたいのですが、私はなにもこのようなスキルを否定しているわけではありません。真に問題なのは、本来は「主」であるはずの「人間性に根ざした衝動」が、本来は「従」であるはずの「合理性を検証するスキル」にハックされ、主従関係が逆転してしまっている、ということです。
「衝動という主人」が「スキルという家来」を使いこなすことで人類は進化させてきたわけですが、この関係が逆転して「スキルが主人になって衝動を圧殺する」状態になってしまっている、というのがいまの経済システムの問題です。この主従関係を再度、逆転して「衝動にシステムをリ・ハックさせる」ことが求められます。
この指摘を別の言葉で言い換えたのが、「Business as Art」ということになります。つまり、アーティストが衝動に突き動かされて作品の制作に取り掛かるように、私たちもまた自身の衝動に突き動かされるようにして各自の活動に携わろうということです。
山口周
ライプニッツ 代表