ケース1:適当に経費を計上していた個人事業主のFさん
建築関係の仕事をしている個人事業主のFさんは、ある年の売り上げを980万円として所得税の確定申告をしました。
Fさんは、売り上げが1000万円を超えると消費税がかかる、ということは知っていたのです。さらに「経費はだいたいこんなモンだろう」と感覚値で計上して、税金がほとんどかからない形で確定申告書を仕上げました。
「こんないい加減な計算では通らないのではないか」とおそるおそる税務署の窓口に提出したところ、窓口の人は内容には突っ込まずになんなく受理。Fさんは安心して、翌年も、その翌年も同じような確定申告をしていました。
Fさん「去年も一昨年もごまかしていたけど、どうせ税務調査なんて来ないよ」
そんなことが続いて、すっかり油断していたFさんでしたが、その翌年、税務調査が入りました。過去5年分の所得税に加えて消費税が課税されることになり、Fさんはどうやって支払ったらいいのか、途方に暮れることになりました。
税務調査では過去のごまかしも見逃してくれません。
ケース2:キレイ好きな「一人親方」のSさん
複数の工務店と契約して、さまざまな工事を請け負っている職人のSさん。手際がよくて仕上がりがキレイなため、昨年もあちこちの現場から引っ張りだこ。繁忙期が続いて、どこの会社からどれだけの仕事を請けたのか、どの振込金額がどの仕事のものなのか、把握しきれなくなってしまいました。
「ええい、面倒だから全部捨ててしまえ!」
職人気質でキレイ好きのSさんは、納品書や領収書など仕事関係の書類を全部ごそっと捨ててしまいました。
Sさん「だって工賃が振り込まれるときには、税金が引かれてるからさ、ちゃんと払ってることになるんじゃないの?」
しかしある日、税務署から電話がかかってきました。収入があるにもかかわらず、きちんと確定申告していなかったSさんは、税務調査を受けて数百万円もの税金を納めることになりました。
税務署は無申告のSさんの収入もチェックしていたのです。
ケース3:「経費の水増し」をしたフリーランスMさん
大手IT企業を退職してフリーランスのプログラマーになったMさんは、前職からのお客さんや、知り合いからの紹介で、順調に仕事をこなしていました。仕事が絶え間なくあるため、収入もどんどんアップしていきました。Mさんは自分で確定申告をしていますが、ある日ふと気がつきました。
「ヤバい、このままじゃ結構税金がかかってしまいそう」
Mさんは「税金を減らすには経費を増やすことだ」と考えました。そこで、経費の水増しがはじまりました。
昨年8000円で買ったパソコンモニターの値段を、実際よりも10倍高い8万円として計算。さらに友人といったカラオケ代や、彼女とのデート代も交際費として計上。ほかにもプライベートで購入した家具や衣類、マンガ、食品などを「これは仕事に必要なものだから」と自分に言い聞かせて経費に含めて計算しました。
Mさん「このくらい、バレないっしょ? みんなやってるし、いちいち確認なんかしないっしょ(笑)」
しかし、ある日Mさんの元にも税務署から電話が。税務調査の結果、Mさんは、罰金も含め、数百万円の税金を納めることになりました。
あまりに不自然な経費の水増しは必ずバレてしまいます。
ケース4:現金商売は大丈夫と思った居酒屋経営者Tさん
個人で居酒屋を営んでいるTさん。コロナ禍で客足が遠のいたこともありましたが、テイクアウトに力を入れ、さらに近所のライバル店が撤退したこともあり、充分な売り上げがありました。
「ありがたいことだけど、このままだと税金が多くかかってしまう……」と案じたTさんは、毎日の売り上げのすべてを帳簿につけず、少しずつごまかすことにしました。
Tさん「売り上げが少なければ、その分払う税金も少なくなるよね」
ところが、Tさんにも税務署から連絡がありました。税務調査官から「これだけ仕入れているのに、これだけしか売り上げがないのはおかしいですね」と指摘されてしまいました。飲食店では3割程度の原価率がふつうですが、Tさんの店では7割を原価としていたのです。
Tさんは言い返すことができず、結局、罰金も含め、数十万円の税金を納めることになりました。
現金商売をしている人のなかには、Tさんのように「売り上げは現金だから隠しておいてもバレないでしょう」という認識でいる人が多くいます。
しかし税務署は、仕入れから全体像を把握します。仕入れの際に現金で払っていたとしても、仕入れ元に反面調査が入ったらアウトです。