テレワークで人間関係のストレスが変化するケースも
テレワークについては、さまざまな調査が行われてきた。内閣府や厚生労働省、東京都等の自治体、東京商工会議所、民間調査機関などから、コロナ禍でのテレワークの調査結果が公表されている。
これらの調査では、テレワーク導入のメリットとデメリットが挙げられていることが多い。ひと口にテレワークといっても、会社ごと、会社員ごとに、さまざまなケースがあるようだ。
テレワークの仕方によっては、職場の人間関係のストレスが変化するケースもある。
昨年末に内閣府が公表した「第2回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(令和2年12月24日)によると、テレワーク経験者の40.8%が「職場の人間関係のストレスが軽減される」というメリットをあげた一方、28.2%が「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」というデメリットをあげている。
テレワークによって、ストレスが軽減する人もいれば、ストレスを感じてしまう人もいるわけだ。そして、そうしたストレスの変化は、仕事のパフォーマンスにも影響を与える。
上司や同僚がいないと単純作業の効率は上がらない
ここで、人間関係、ストレス、仕事のパフォーマンスに関する、有名な心理学の法則を2つ紹介しよう。
1つは、「ヤーキーズ・ドットソンの法則」。アメリカの心理学者ヤーキーズとドットソンは、ネズミを迷路に入れて、電気ショックを与えるという実験を行った。わずかな電気ショックの場合、ネズミは何もないときよりも迷路の出口に早くたどり着くことができた。しかし、電気ショックが強いとただ逃げて走り回るだけだったという。
1908年、彼らはこの実験をもとに、動機づけにはストレスなどの不快なものが一定量あったほうが効率が上昇する。しかし、ストレスがあり過ぎると効率は低下する──という法則を提唱した。
もう1つは、「ザイアンスの動因理論」。20世紀前半から中頃にかけて、心理学では、他者の存在が個人の仕事や作業の遂行にどう影響するかが議論された。さまざまな実験が行われた結果、ある実験では他者の存在が促進的に、別の実験では抑制的に作用することが示された。
この相矛盾する結果について、1965年にポーランド出身のアメリカの心理学者ザイアンスは、他者の存在により心理学でいうところの「動因(drive)」、つまり人間の行動を駆り立てる内部の力が引き起こされ、その結果、作業が簡単であればその促進が、複雑であればその抑制が生じる──という理論を展開した。
これらをテレワークに当てはめてみるとどうなるか。テレワークによって、職場の人間関係のストレスが減って適度なものになると、ヤーキーズ・ドットソンの法則によって、仕事の効率が上がる。逆に、コミュニケーション不足によってストレスを感じてしまうと、効率が下がることもある。
また、上司や同僚が目の前にいないと、ザイアンスの動因理論によって、簡単な作業では促進が起こらない一方で、複雑な作業では抑制が生じない。その結果、簡単な作業の効率は下がるが、複雑な仕事のパフォーマンスは上がることになる。