上司や同僚はストレスの種か、ストレス解消のもとか
この2つの法則を合わせて考えてみよう。ザイアンスの動因理論でいう他者の存在という動因を、人間関係から生じるストレスと捉えれば、テレワークのパフォーマンスは、そのストレス次第ということになるだろう。ただし、人間関係のストレスの感じ方は人それぞれだ。
たとえば、職場に口うるさい上司がいたとしよう。テレワークで、この上司と毎日会わなくてよくなったら、パフォーマンスは上がるだろうか?
部下の中には、この上司を「面倒な人」と否定的に感じる人もいれば、「面倒見のよい人」と肯定的に考える人もいるはずだ。つまり、部下によって、この上司はストレスの種にもなれば、ストレス解消のもとにもなるわけだ。
テレワークを導入すると、前者は、この上司と顔を突き合わせなくて済むので、それまで感じていた余計なストレスが解消される。この人が、プログラミングやデザイン設計のような複雑な作業をする場合、パフォーマンスは上がるだろう。
逆に、後者は、この上司との無駄話ができず、それまでに感じていた適度なストレスが失われてしまう。こういう人が、データ入力のような簡単な作業をする場合、オフィスで働くときよりも、テレワークのほうがパフォーマンスは下がってしまうだろう。
新たなハラスメント「テレハラ」は論外
テレワークで、上司や同僚と顔をまったく突き合わせなくて済めばよいのだが、ここで厄介なのが、オンラインで会議や面談をするためのツールの存在だ。こうしたツールの進化によって、上司や同僚に在宅時のラフな容姿や生活空間を見られたり、ウェブ会議中の返事やリアクションを求められたりすると、オフィス勤務にはなかった新たなストレスが生じかねない。
実際に、テレワークでのセクハラやパワハラが、「テレハラ(リモハラ)」として問題になっているケースも多々あり、東京都では相談窓口を開いたほどだ。上司や同僚が、コミュニケーションの不足を埋めようとして、必要以上にウェブでの面談で無駄話をしたり、執拗にメールやチャットをしたりすることが、こうしたハラスメントにつながるケースもあるという。こうしたテレハラは、もちろん論外だろう。
こうしてみると、テレワークでのストレスの変化をみるときには、職場で感じていたストレスの軽減に加えて、テレワークならではの新たなストレスにも注意する必要がありそうだ。
いっそ、ストレスを測定する計測器でもあればよいのだが、残念ながら人間の心を測る機械はまだ開発されていない。テレワークをするときは、会社員が自ら意識して、上司や同僚などの人間関係のストレスの変化を感じ取り、パフォーマンスの向上につなげていくしかなさそうだ。
コロナ禍は、医療の枠にとどまらず、職場での人間関係のストレスにまで影響を及ぼす厄介なものだ。人間のほうも、ウイルスによってもたらされる悪影響に負けないように行動変容を進めて、ウィズコロナの仕事の環境に適応していくことが必要と思われる。
篠原 拓也
ニッセイ基礎研究所
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