最期までブレずに自分の生き方を貫く
スタッフには、D太さんの自宅に伺うときは「玄関を開けたら、もう亡くなっているかもしれない、と覚悟しておくように」と伝えていました。
その翌日、実際にそうなりました。
訪問看護師が訪ねると、落ちたタバコをベッドから拾おうとしたのか、手を伸ばした体勢のまま、D太さんは亡くなっていました。それでも猫の餌はベッドの上に置かれていて、最期まで大好きなきなこちゃんの世話をしていたことが見て取れました。 性格はいろいろと大変な方ではありましたが、最期までブレずに自分の生き方を貫いた、とても印象深い患者さんでした。
さて、亡くなられた2日後のこと。D太さんが大事にしてきたきなこちゃんは身内の方が引き取れないとのこと。役所に聞くと「殺処分しかないですね」という回答でした。それでいてもたってもいられなくなり、きなこちゃんの里親探しがはじまりました。
猫の里親探しにまで奔走したのははじめてのケースでしたが、無事に里親になってくれる人がみつかって、今でもD太さんのきなこちゃんは別の名前をもらって元気に暮らしています。
まわりになんと思われようと、自分の生き方を貫いたD太さんの逝き様は「あっぱれ」だったと思います。介護スタッフは、D太さんにさんざん文句を言われて苦労が多かったはずですが、それでも懸命にサポートして、できるだけ「その人らしい」最期を迎えてほしいと頑張ってくれました。
在宅医療の現場は、医師だけの力ではどうにもなりません。看護師、ヘルパー、ケアマネジャー、薬剤師など、たくさんの人がかかわって成り立っています。だからこそ、おひとりさまでも、自宅で「あっぱれ」な死を迎えることができるのです。
中村 明澄
在宅医療専門医
家庭医療専門医
緩和医療認定医