安倍前首相の辞任時、どのような「投資判断」ができたか? (※写真はイメージです/PIXTA)

ファイナンスの分野に心理学の概念を取り入れた「行動ファイナンス」。この理論によると、投資判断では「大局観」が重要だといいます。東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)が詳しく解説します。

株式市場は一時2万3000円を割り込む動きとなった

2020年8月には「アベノミクス」を牽引していた安倍前首相の突然の辞任報道で、株式市場では日本の構造改革・成長戦略が止まるのではとの見方が強まり、2万3000円を一時割り込む動きとなった。

 

当時、市場では「日本の長期成長期待が失われることで日本株の魅力は低下するのでは? 今、日本株は売った方がいいのではないか?」との声が高まっていた。

 

このような状況下、行動ファイナンスの視点からどのような投資判断をすることができたのであろうか? 行動ファイナンスアプローチを活用した投資家同士の対話の一例を見てみよう。

 

投資家A「たしかにアベノミクスによって日本の長期成長期待が高まり、当初は海外投資家の資金を惹きつけ、日本の株価は急上昇した。ただ、その後、日本は安倍内閣の継続により政治が安定した一方、構造改革はあまり進まず、成長期待を描きにくいと捉えた海外投資家も多くいたことで、日本株は大きく売られる展開となっていた。

そのため、安倍首相辞任を受けた市場の最大の関心事は、後任の首相が誰になるのか、その首相を中心とした内閣で構造改革路線が継承されるとともに、先行きに対してもしっかりと成長期待を高めることができるかということだろう。そこをしっかりと見極めてから日本株の売却をしても遅くはないのではないか」

投資家B「そもそも日本株に長期の成長期待が持てるのだろうか? 日本は膨大な借金を抱えているし、人口も減っていく見通しだし、正直言って、長期の成長力にあまり魅力を感じない。日本より米国のほうが成長性は高いと見られるので、日本株を全売却して、米国のハイテク株にすべて移したらどうだろうか?」

投資家A「たしかに日本はバブル崩壊後、失われた20年とも25年ともいわれる構造不況に陥ってきた状況から判断すると、そのような意見はもっともだろう。とはいえ、少し長い歴史からみると、日本の違う姿も映し出される。

今、歴史のなかで私たちは資本主義の時代に生きている。だからこそ、資本主義の先を走っていると考えられ、世界最大のGDPを誇るアメリカの動向をしっかりと見ていくことが重要だ。近年こそ、長期の高成長を謳歌してきたアメリカであるが、かつては日本と同じように構造不況を経験している。

たとえば、70~80年代のアメリカがそうであった。当時はスタグフレーション(物価の上昇を伴う景気後退)が発生するなど、16年以上にわたって"株式の死"といわれる、ほとんど株価が上がらない時代を過ごしてきた。そのようなときに打ち出された構造改革の動きが『レーガノミクス』である」
※アメリカのレーガン元大統領(1981年~1989年)がとった、規制緩和や減税などの経済政策のこと

投資家B「レーガン元大統領は、どのような経済政策をとったのか教えてほしい」

投資家A「共和党を与党とするレーガン政権は、軍事費等の拡大で政府支出を拡大させる一方、市場原理と民間活力を重視し、規制緩和や富裕層向け、企業向けの減税を行う構造改革を実行し、強いアメリカを復活させる経済政策を行った。それによって、長期の潜在成長率を高めることで、一人当たりの名目GDPを長期的に引き上げ、経済、株式市場も長期の上昇トレンドを謳歌することができたとも言われる。

今でこそ、米国株の代表的な株価指数の一つであるNYダウ(ダウ工業株30種平均)は3万ドルを超える水準で推移しているが、当時はだいたい2000ドル程度で推移していた。これこそが、長期の良好なファンダメンタルズを反映した株式投資の魅力といえるだろう」

投資家B「では、本題の我が国、日本であるが、2012年11月の野田元首相による衆議院解散表明、同年12月に第2次安倍政権が発足したのを機に"アベノミクス相場"が始まった。①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略という"三本の矢"が打ち出され(のちに新三本の矢も打ち出された)、構造改革に取り組む姿勢を示した。

先ほどのアメリカの歴史に学ぶのであれば、もし日本の構造改革が上手くいき、長期的に潜在成長率を高め、一人当たりの名目GDPを引き上げることができれば、長期の日本株の上昇に期待が持てる局面にあり、しっかりとポートフォリオに組み入れておく必要があるとの見方もできる。

そのような点で、後任の首相・内閣でしっかりと構造改革路線を継承できれば、日本および日本株の先行きに対しても成長期待を高めることができるかもしれない。結論としては、そこをしっかりと見極めてから日本株の売却を行っても遅くはない、ということであろうか」

行動ファイナンスの世界では「大局観」が重要

最終的にアベノミクス路線を継承した菅内閣が誕生したことで、日経平均株価は持ち直しの動きを見せ、2021年に入ってから3万円の大台をつけた。

 

行動ファイナンスの世界では、目先の動きに一喜一憂して対応してしまう「近視眼的損失の回避」行動を諫(いさ)めている。歴史の流れを踏まえた上で、大局観をもって投資判断を下すことは重要であろう。

 

加えて、俯瞰的に対話ができる投資の同志(またはメンター)を持つことも、合理的な意思決定につなげるために大事にしたい。

 

中村 貴司

東海東京調査センター

投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)

 

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東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)

山一證券、メリルリンチ日本証券、損保ジャパンアセット(現SOMPOアセット)などでの富裕層・法人営業に加え、年金基金、投資信託のアナリストやファンドマネージャーとして新興市場やオルタナティブを含む幅広い市場・商品の担当責任者を経て、2016年に東海東京調査センター入社。

現職では短中期の戦術的資産配分(タクティカル・アセットアロケーション)やオルタナティブ投資(ヘッジファンド・テクニカルやコモディティ戦略含む)の視点を踏まえたグローバルな日本株の市場分析等を行う。他の代替資産・戦略としてJリート投資戦略、ESG投資戦略、行動ファイナンス投資戦略などもカバーしている。

英国国立ウェールズ大学経営大学院MBA。アライアント国際大学・カリフォルニア臨床心理大学院米国臨床心理学修士号(MA)。慶應義塾大学商学部卒。国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、国際テクニカルアナリスト連盟検定テクニカルアナリスト(MFTA)、CFP、英国王立勅許鑑定士(MRICS)、不動産証券化協会認定マスター、中小企業診断士。

日経CNBCなどのTV・メディアに出演。日経新聞、QUICK、ロイター、ブルームバーグ、時事通信、東洋経済オンライン、幻冬舎ゴールドオンラインなどでも執筆、コメントを行う。ヘッジファンド・テクニカルのキャリアとして世界のテクニカルアナリスト協会を束ねる国際テクニカルアナリスト連盟(IFTA)の理事などを歴任。早稲田大学ビジネスファイナンスセンターや同志社大学、青山学院大学等で講師を務める。

著書には投信営業に行動ファイナンスアプローチなどを活用した『会話で学ぶ!プロフェッショナルを目指す人の「投信営業」の教科書』(2021年)がある。

●オルタナティブ投資戦略(東海東京TV)
https://www.tokaitokyo.co.jp/tv/public/market/global.html

著者紹介

連載「行動ファイナンス」の視点を日本株投資に活かす方法

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