株式市場では、2020年のコロナショックのように急落する局面が数年に一度の頻度で起こる傾向があります。そこで今回は、値動きに一喜一憂しないための「投資メンタルマネジメント」「行動コーチング」という新しい考え方について、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)が解説します。

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乱高下する株式市場で「合理的な投資行動」を取るには

2020年の日本株式市場は、世界的に広がった新型コロナウイルスに振り回され、目まぐるしい値動きとなった。日本株の代表的な指数の一つである日経平均株価は、2020年1月に2万4000円台の年初来高値をつけたあと、3月には1万6000円台まで急落(高値からほぼ2ヵ月で30%を超える下げ)。その後はV字回復の動きとなり、2021年に入り3万円の大台を回復した。

 

2020年3月までの急落の動きである「コロナショック」と、その後、過剰流動性を背景に株価と実態経済が大きく乖離していると言われたなかで急騰した「コロナバブル」に一喜一憂、右往左往した個人投資家の方も多かったのではないだろうか?

 

実際、マーケットのあまりのスピードについていけず、たとえば、2020年3月の急落時には、相場の大幅な下落に慌てて投げ売りしてしまった投資家も多かった。逆に、まだここから下がるという不安と恐怖に駆られ、適切なリバランスの観点からリスク資産である株式へのシフトを行うことを躊躇してしまい、急反発の動きを取り逃してしまったとの声も多くあった。

 

こうしたマーケットの動きに一喜一憂・右往左往せず、冷静に自分自身を見つめ、合理的な投資行動を行うことで中長期的な資産形成につなげていくためにはどうしたらいいのだろうか?

 

その一つの答えとしては、心理学的アプローチを取り入れた「投資メンタルマネジメント」「行動コーチング」の考え方を取り入れることだと考えている。

「投資メンタルマネジメント」「行動コーチング」とは

そもそもあまり聞いたことのない「投資メンタルマネジメント」と「行動コーチング」とは一体、どういったスキルなのだろうか?

 

「投資メンタルマネジメント」とは、投資における心理面を重視し、マーケットの心理を把握するとともに、自分自身の心理をしっかり管理・マネジメントしていこうとするスキルである。

 

そして「行動コーチング」(ここでは自分自身のコーチングを想定)とは、投資における自分自身のニーズや行動特性を客観的に把握し、リスクを低減させながら持続可能な投資リターンを上げるための合理的な方法を自分自身に問いかけながら(また他人との対話を通じて)実践していこうとするスキルを指す。

 

この2つのスキルを統合し、それをわかりやすく説明するなら、投資の手法としては、景気や業績動向などから本質的価値をはかろうとする「ファンダメンタルズ分析」とともに、投資家心理、投資家行動などから市場の変動を掴んでいこうとする「行動ファイナンス」「テクニカル分析」などの理解を深め、多角的に市場を分析することだといえる。

 

そして、カウンセリングやコーチングのスキルなどを活用し、「マーケット」と「自分自身」の心理的な動きをより客観的に把握・管理した上で、合理的な投資行動・意思決定につなげていくことだといえるだろう。

 

ちなみに、カウンセリングは、問題の根本原因を深く掘り下げていく過去・現在志向が比較的強いアプローチといわれる一方、コーチングは、現在・未来志向で抱えている問題の解決を図っていくアプローチとみなされることも多いが、どちらも「心理学」に深く関わったスキルである。

 

米国では、投資のパフォーマンスにつながる可能性のある付加価値があるスキルとして、この「投資メンタルマネジメント」や「行動コーチング」のようなスキルが挙げられる。

 

メンタルマネジメントやコーチング自体は、以前からビジネスの現場で使われていた。ただ、認知・社会心理学や臨床心理学など幅広い心理学を取り入れた投資分野でのメンタルマネジメントやコーチングは、ここ数年の新しいトレンドといえる。そして、この流れは今後、日本でもより一般的になってくると考えられる。

 

中村 貴司

東海東京調査センター

投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)

 

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