(※写真はイメージです/PIXTA)

ファイナンスの分野に心理学の概念を取り入れた「行動ファイナンス」。本記事では、多数派と同じような行動をとってしまう「ハーディング現象」を、行動ファイナンス戦略に取り入れ、株式投資に活かす考え方について、東海東京調査センターの中村貴司シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)が解説します。

「ハーディング」を行動ファイナンス戦略に取り入れる

「行動ファイナンス」とは、ファイナンスの分野に心理学の概念を取り入れた理論で、実際のマーケットにおける理論と現実のギャップを埋めるため、伝統的なファイナンス理論(ファンダメンタルズ分析)への対立概念として登場した理論である。

 

行動ファイナンスによれば、株式市場は非効率であり、株価はマーケット参加者の感情・バイアス(偏向・先入観)に左右され、合理的とは言えない意思決定により、適正価格を逸脱したモメンタム(勢い)やバブルが生じるとされている。

 

たとえば、モメンタムが生じる一つの要因として挙げられるのが、投資家の「ハーディング(群れ行動)」である。今回は、この「ハーディング」を行動ファイナンス戦略として投資に活用したい。

コロナ拡大による株価下落の局面…どう「思考」するか

日本株(日経平均株価)は、2020年3月に1万6,358円を底にして反発基調となった。しかし、経済の回復が十分に実感できないなかでの3月を底にした株価回復に懐疑的な投資家も多かった。

 

IMF(国際通貨基金)は、2020年6月に報告書で日米の株価上昇に対して、投資家が過大にリスクをとっている可能性を指摘した。足元の株価上昇は大規模な金融緩和による"過剰流動性"がもたらしたバブル的な動きであり、株価は実体経済と乖離しているため、いずれ元の水準まで戻るとの慎重な見方がマーケットでは強まっていた。

 

このような局面で、どのような「行動ファイナンス」アプローチをとることができたのであろうか? 以下に、自分自身(投資家自身)との対話例を示す。

 

「TVでも新型コロナウイルスが世界的に広がり、収まる気配がないとか、企業の倒産・リストラが増えているとか、暗いニュースばかり流れている。実際、大手証券会社の著名ストラテジストは、リーマンショックのように今後二番底が来る可能性が高く、現金化してリスクに備えたほうがいいと警戒している。

 

ただ、行動ファイナンスの視点を用いれば、日本株のもう一段の上値余地が示唆され、先行きに対して強気スタンスがサポートされているように思う。足元の日本株は、経済活動の再開による先行きの景気回復期待と新型コロナウイルスの感染第二波による先行き不透明感が綱引きしている状態にある。

 

新型コロナウイルスは人類が初めて直面した新種のウイルスの脅威であり、本当に収まるのか、それとも収まらないのかは実際のところは誰にもわからないのかもしれない(五分五分の確率)。

 

そのような場合、投資家による合理的な投資行動としては、ポートフォリオの一部で慎重姿勢をとり(たとえば、現金の積み上げやショートポジション構築によるヘッジ)、万が一に備える準備を怠らないことだろう。

 

これは一体、何を意味するのだろうか?

 

個々の投資家が合理的な行動として慎重姿勢をとればとるほど、市場全体にポジションの歪みがもたらされる『合成の誤謬(ごびゅう)』が生じてしまうことになる。

 

※ミクロの視点では合理的な行動であっても、それが合成されたマクロの世界では必ずしも好ましくない結果につながること。

 

つまり、個々が危機に備え、正しい投資行動をとったが故に、市場全体では平時と比べて現金やヘッジが過剰に積み上がってしまったのではないか。

 

今後、新型コロナウイルスの感染者数が拡大した場合でも、個々の投資家は事前に現金化やヘッジポジションを構築しているため、市場全体として過剰な売り圧力は生じにくくなる可能性がある(感染者数の増加に対する株価下落の感応度は低下)。

 

一方、仮にワクチン開発の進展も含めてウイルスが収まる方向にシフトした場合、投資家は今までの慎重姿勢を修正し始めることも考えられる。具体的には、株式の持たざるリスクや市場の上昇に取り残される恐怖を感じた投資家が、一斉に買いに走ることだ。

 

そして、このような動きは、新たな上昇トレンドを生む『ハーディング(投資家の横並び)現象』になりうるだろう。

 

このような行動ファイナンスの視点を用いれば、日本株に対して先行き強気な見方をとることができ、市場に慎重姿勢が残るなかでも日本株の押し目買いスタンスを継続することは一つの選択肢になるだろう。」

 

株価はその後二番底をつけることなく上昇トレンドを継続し、2021年には3万円の大台をつけた。各国中銀による積極的な金融緩和と政府による大規模な財政政策が功を奏し、グローバル企業を中心に日経平均株価のEPS(一株当たりの純利益)は大幅に改善。最終的には、金融バブルと懸念されていたPER(株価収益率)などのバリュエーション指標の過熱感も概ね解消される形となった。

 

■まとめ

もちろん、今回はたまたまこの戦略が成功したのかもしれない。まったく同じ場面はもう来ないのかもしれないが、「歴史は繰り返す」、もっと正確に言うと「まったく同じ歴史を繰り返すことはないが韻を踏むことはある」と言われるように、"似た相場局面"はまたどこかで訪れるだろう。

 

そのような場面に備えて、投資家の「ハーディング(横並び)」の可能性を予測し、投資戦略に活かす分析手法は大いに参考になると考える。行動ファイナンスの視点も踏まえた市場分析や自分自身との対話を継続的に行うことで、合理的な投資の意思決定につなげたい。

 

中村 貴司

東海東京調査センター

投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)

 

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