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バイアスが入ると、投資家は非合理的な判断をとりがち
マーケットの動きに一喜一憂・右往左往せず、自分自身が冷静に合理的な投資行動を行うためには、心理学的アプローチを活用した「投資メンタルマネジメント」と、「行動コーチング」の考え方を取り入れることが重要だ(参照:『「投資メンタルマネジメント」「行動コーチング」が日本でも一般的になる』)。
このようなスキルを身につけるためには、投資の分野に「心理」のエッセンスを取り入れた「行動ファイナンス」の考え方を学ぶことが重要である。今回は、この「行動ファイナンス」をわかりやすく説明したい。
まず、「行動ファイナンス」とは、ファイナンスの分野に心理学の概念を取り入れた理論のことで、実際のマーケットにおける理論と現実のギャップを埋めるため、伝統的なファイナンス理論(ファンダメンタルズ分析)への対立概念として登場した理論として知られる。
行動ファイナンスによれば、株式市場は非効率であり、株価はマーケット参加者の感情・バイアスに左右され、合理的とはいえない意思決定により、適正価格を逸脱したモメンタム(勢い)やバブルが生じると説明されている。
そもそも、バイアスには、偏向や先入観といった意味があり、これによって投資家は根拠のない思い込みなどから、合理的な行動から外れる投資行動をしてしまうことになる。
このバイアスの代表的な例としては、アメリカの行動経済学者であるダニエル・カーネマンなどによって実証された「プロスペクト理論」がある。この理論は、上がった株は早く売り、損した株は持ち続けるという、投資家の行動の原理を解き明かしたものだ。ちなみに、ダニエル・カーネマンは、このプロスペクト理論でノーベル経済学賞を受賞した。
また、毎日、毎月の価格変化を必要以上に気にしてしまう「近視眼的損失の回避」や、心理的ストレスを軽減するために他人と同じような投資行動をとってしまう「ハーディング(群れ行動)」なども、投資家によるバイアスの例といえる。
「行動ファイナンス理論」は「効率的市場仮説」を否定
さて、行動ファイナンス理論は、現代ポートフォリオ理論など伝統的なファイナンス理論の前提となっている「効率的市場仮説」を真っ向から否定する理論といえよう。「効率的市場仮説」とは、すべての情報があらゆる種類の証券価格に瞬時に反映されるというもので、投資家は合理的であり、市場は効率的という仮説が前提になっている。
とはいえ、長期的に投資の実務に携わっている人たちからすれば、投資家は合理的で市場は効率的との前提が、いかに実際の市場と乖離しているかを強く感じていることであろう。
伝統的ファイナンス理論では、テクニカル分析を否定しているのだが、そもそも効率的市場仮説が成り立っているかどうかも怪しいなかでは、ファンダメンタルズ分析を信奉することもできないし、テクニカル分析を否定することもできない。
たとえば、ファンダメンタルズ分析の人たちが、テクニカル分析を活用する人たちをノイズトレーダーとみなしていた場合でも、様々な市場の局面や制約などでノイズトレーダーがマーケットを動かすことは大いにありうる。
また行動ファイナンス理論では、投資家はすべて合理的な判断を下すことは難しいとの見方をとっており、その場合、短期でファンダメンタルズ価値に必ずしも戻るわけでもなく、逆にファンダメンタルズ価値から大きく離れてしまう可能性もあると、直接的、間接的に我々に伝えてくれている。
ファンダメンタルズ分析もテクニカル分析も完璧に市場を説明し、予測することはできず、どの期間で活用するかによって結果が異なる上、その投資手法が効く局面と効かない局面もあるというのが実は正しいのかもしれない。だからこそ、様々な投資の軸を持ちながら、総合的に市場を判断していくことが重要になってこよう。
マーケットで何か一つの手法を信奉してしまうということは心理的に楽であり、かつ一貫性を保つことにもなり、対外的な説明責任(言い訳含む)も果たしやすくなる。
一方、行動ファイナンスの話で説明したように、自分自身がその手法を過度に信じすぎてしまうことで思い込み・バイアスがかかっている可能性がある。
また、長期で投資をしていると、一貫性を保てる頑強なモデル・理論を活用しているからこそ、過去と異なる大きな値動きが生じた場合に、今までの利益を吐き出してしまう可能性もある。そして最悪の場合、その手法にこだわりすぎて大損害を被り、投資から撤退せざるを得なくなることもありえる。
このような可能性も踏まえた上で、多面的に市場に向き合うとともに、自分自身が望むリスク・リターンおよび投資行動の特性やライフステージ等を考慮し、しっかりとポートフォリオを管理して中長期の資産形成につなげていくことが重要だろう。
中村 貴司
東海東京調査センター
投資戦略部 シニアストラテジスト(オルタナティブ投資戦略担当)
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