がんで「末期状態」残された時間を有効に…と思ったら
がんの治療成績は年々向上しており、多くのがんは「治る病気」になってきました。
しかし、現代の医学では治療が難しいがんもあります。がんが体の中で拡がり、さまざまな合併症を引き起こして体力も低下し、手術や抗がん剤治療、放射線治療などの積極的治療の継続が困難となると、いわゆる「末期状態」と診断され、がんに伴うつらい症状を緩和する「緩和ケア」が中心となります。
もちろん、がんに対する積極的治療が困難になったからといって、すぐに命を落とすわけではありません。
末期状態とは、「残された時間に限りがある」ということです。末期状態と診断された患者さんが、残された限りある時間を有効に使いたい、最期まで自分らしく生きて、自分らしい最期を迎えたいと希望し、在宅療養を選択するケースが増えています。
また、最近では新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、最期まで家族と過ごすために在宅療養を選択する方も多くなっています。
がんの症状は人それぞれであり、がんの種類、原発巣や転移の場所によって大きく異なります。その代表的な症状である「痛み」の治療について解説します(ただしすべての患者さんに痛みが出現するわけではありません)。
強い痛みが出現した際、まずは、多くの方が一度は飲んだことのあるような一般的な痛み止め(アセトアミノフェンやロキソプロフェンなど)を試しますが、それでは効果が不十分な場合、医療用麻薬を用いることとなります。
麻薬という言葉から、依存症や中毒などの悪いイメージがつきまといがちですが、医療用麻薬はより安全に使用できるように改良された鎮痛剤であり、正しい使用方法で適量を使用すれば、副作用を最小限に抑えながら痛みを最大限緩和することができます。
医療用麻薬の最大のメリットは、投与量を増やせば増やすほど効果が強くなるということです。理論的にはどんな強い痛みでも完全に抑えることができますので、一般的な「がんは痛みで苦しむ」というイメージは過去のものとなりつつあります。
医療用麻薬は、痛みだけでなく呼吸困難などの苦痛の緩和にも効果的であり、十分な緩和ケアを行うための鍵となります。
現在では、錠剤や粉薬、水薬などの内服薬に加え、口腔内で吸収される舌下錠や、皮膚から吸収される貼付薬、さらに坐薬などもあり、病状の悪化に伴い薬を飲むことが難しくなった方でも安全に使用することができます。
近年では、注射薬をバルーン型の持続注入ポンプや小型の電動式の持続注入ポンプに充填して持続的に皮下注射で投与する方法(持続皮下注)が在宅医療の現場でも広く普及し、痛みに加えてさまざまな症状を緩和できるようになりました。
このようにさまざまな薬剤やデバイス(医療機器)を用いて、在宅医・訪問看護師・訪問薬剤師の医療チームによる、在宅でも病院とまったく変わらない緩和ケアが実現できます。
日本人は昔から我慢強く、痛みなどの苦痛に耐えることを美徳とする考え方も残っています。しかし、患者さんが痛みを我慢して常につらい顔をしながら自宅で過ごしていると、一緒にいる家族が耐えられなくなります。
つらい症状を我慢せず在宅医や訪問看護師に伝え、その訴えに基づいて十分な緩和ケアを行い、在宅での貴重な時間をできるだけ楽しく有意義に過ごしてほしいと思います。