(※画像はイメージです/PIXTA)

私たちの仕事は功利的・手段的なインストルメンタルなものから、自己充足的・自己完結的なコンサマトリーなものへと転換することが求められると山口周氏は語ります。今後、ビジネスマンに問われる意識とは。※本連載は山口周著『ビジネスの未来』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

ビジネスには経済合理性を超えた衝動が存在する

ここから2つのイニシアチブについて考察していきましょう。まずは1つ目の「社会的課題の解決」についてです。

 

コンサマトリーな思考様式・行動様式が社会に根付くことによってソーシャルイノベーションもまた推進されると思われます。なぜなら、社会的課題を解決するイノベーションは、必ず「その問題を見過ごすことはできない、なんとかしなければならない」という衝動に突き動かされた人によって実現されているからです。

 

筆者は2013年に上梓した著書『世界でもっともイノベーティブな組織の作り方』を執筆する際、スティーブ・ウォズニアックをはじめとして、世界中でイノベーターとして高く評価されている人物、およそ70人にインタビューを行いました。その際、判明したのは「イノベーションを起こそうとしてイノベーションを起こした人はいない」という、半ば喜劇的な事実でした。彼らは「イノベーションを起こそう」というモチベーションによって仕事に取り組んだのではなく「この人たちをなんとか助けたい!」「これが実現できたらスゴい!」という衝動に駆られて、その仕事に取り組んだのです。

 

ここでポイントとなるのは、彼らイノベーターたちが「こうすれば儲かる」という経済合理的な目論見だけによってではなく、「これを放ってはおけない」「これをやらずには生きられない」という強い衝動……、それはしばしばアーティストにも共通して見られるものですが……によって、それらのイノベーションを実現させているということです。

 

過去のイノベーションを調べてみれば、核となるアイデアの発芽したポイントに、経済合理性を超えた「衝動」が必ずといってよいほどに観察されることが確認できます。

 

大雨のデリー郊外で、幼い子供二人を伴った家族がバイクに乗って移動している様を見て、「この人たちにも買える安価で安全な自動車が必要だ」と感じたラタン・タタ。

 

凍てつく真冬の夜に、屋台のラーメン食べたさに子供を連れて長い列に震えながら並ぶ人たちを見て「自宅で気軽に美味しいラーメンを食べさせてあげたい」と感じた安藤百福。

 

ゼロックスのパロアルト研究所で「コンピューターの未来」を示唆するデモンストレーションに接して「これは革命だ!このスゴさがわからないのか!」と叫び続けたスティーブ・ジョブズ。

 

20世紀前半、しばしば世界中で大流行して多くの子供の命を奪ったポリオを根絶するべく、ワクチンの開発に生涯を捧げながら、特許を申請せず、ワクチンの普及を優先したジョナス・ソーク。

 

このような「経済合理性を超えた衝動」は、アーティストの活動においてしばしば見られるものですが、同様の心性がアントレプレナーにもしばしば観察されるのです。現在、ビジネスの文脈においてしばしば議論の俎上に上る、いわゆる「アート思考」とビジネスとの結節点はここにあります。高原社会において、必ずしも経済合理性が担保されていない「残存した問題」を解決するためには、アーティストと同様の心性がビジネスパーソンにも求められる、ということです。

 

山口周

ライプニッツ 代表

 

 

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