少しはお節介くらいのほうがいい
マーケティング用語に「真実の瞬間」という概念があります。初対面、第一印象です。出会いの最初の10秒間をいうようです。この10秒間は、例えば入ってくる側、患者さんも業者さんもお客さんも、身構えることができますが、待っている方、患者さんやお客さんを迎え入れる方にとっては、予約があれば別ですが、予期せぬ瞬間です。その予期せぬ瞬間にうろたえない心構えも必要なのだと思っています。
例えば、意を決して入ってきたのに混んでいて待ってもらわなければならない方。予約をしていたとしても、不安や痛みを抱えて来られた方。そうした人にどう応対するか、温かい応対ができるかどうかが重要なのです。
何事にも型は必要ですし、教える場合は型を教えるのが基本ですが、型にはまり過ぎている接客は不自然です。特に病院ですから、患者さんの状況で、臨機応変な対応が必要になります。だから、型をまず覚えたら、その人の人となりに合わせて、個性を発揮することもこちらとしては認める必要があります。
時には「ちょっと乱暴だな」と思える態度でもその人に合っていて、患者さんに評判がいいという場合もあります。加えて、少しはお節介くらいのほうがいいです。声を掛けるほうが、黙っているよりもいいのです。気持ちがこもった一言は、やはり患者さんの気持ちを楽にすることができます。
居心地を良くする「おもてなし」で差別化
真実の瞬間といわれる出会いの瞬間から、最後にお見送りをするまで、その滞在時間のすべてがおもてなしの対象です。
歯科医院ですから治療の腕が良いことは前提として、アドバイスや治療計画が的確で分かりやすいか、保険診療と自由診療の推奨は的を射ているかなど、ドクターや衛生士の資質は当然重要ですが、腕=技術だけでなく、やはり居心地が良くて、安心していられるためのおもてなしが重要です。ホテルでも一流のレストランでもありませんからやり過ぎは禁物ですが、そうしたいわばサービス業の本山から学ぶべきことも少なくありません。
「お得意さま」こそ売上・患者数を増やす強力なカギ
例えばマーケティング用語に、「チェリー・ピッカー」という言葉があります。目玉商品(安売り商品)を目当てにお店を渡り歩く人のことです。一般の小売店の場合、平均すると、チェリー・ピッカーが顧客全体の約30%、値引き愛好者と呼ばれる特売日のまとめ買い客が約20%、そして一般客であるライトユーザーが同じく約20%、値引きに左右されない常連、お得意さまが約30%だといわれます。黄金律のようなものです。
問題は、このお得意さまが売上構成比では4割以上で、粗利構成比では75%ほどを占めるという事実です。ちなみにチェリー・ピッカーは売上構成比の16%ほどで、粗利構成比に至ってはマイナスだそうです。
しかもお得意さまは、そのお店が気に入っているので、友達や家族など別のお客さんを連れてきてくれるのです。口コミです。今では口コミはネットの評判やSNSの友達の推奨が大きいといわれますが、文字どおりの口コミュニケーションも少なくとも歯科医の世界では顕在です。
その最初が家族への推奨です。これが大切なのです。広告やセールスプロモーション、ホームページなど、お金を掛けた「外部マーケティング」でいくら宣伝しても、それでたとえ患者さんが集まっても、歩留まりが悪い。その点、口コミの歩留まりは高いのが普通です。
客が客を呼ぶ。患者さんが紹介してくれる。これこそが千客万来のコツなのです。私も出店に際しては競合調査をして、競合に勝つための戦略を練ります。ただ、それは最初だけです。ひとたびオープンしたら、患者さんに愛されることが大切になってきます。そうすれば自ずと競合に勝つことができます。もっとも、逆は必ずしも真とは限りません。競合にかまけて、お客さんのニーズを忘れてしまうということは、よくあることのようです。
このように接客態度、お客さまを迎える気持ち、心掛け、真心など、お金を掛けない「内部マーケティング」に力を注ぎ、研ぎ澄ますことは、ローリスク・ハイリターンの投資なのです。
河野 恭佑
医療法人社団佑健会 理事長
株式会社デンタス 代表取締役社長
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