(※写真はイメージです/PIXTA)

患者を集めるために、広告やセールスプロモーション、ホームページなどマーケティングにお金をかけている医院も多いでしょう。しかし、お金がかかるものだけがマーケティングではありません。接客態度や電話応対の向上なども重要なマーケティングであり、こうした当たり前のことこそが最大の差別化に繋がることをご存じでしょうか。5年間で25医院を開業した歯科院長が、成功の秘訣を解説します。

「トイレ掃除」と「医院前の掃き掃除」で患者3倍増

私がまず行ったのは、自分が誰よりも早く出社して、真っ先にトイレ掃除をして、そのあとで医院の前の掃き掃除をするということです。人があまりやりたがらないことを徹底的にやる。何よりお金も掛かりませんし、自分のやる気だけでスタートできます。

 

事実、それだけで患者さんの数は2倍から3倍になりました。これもまた「差別化」だと気づいたのはあとになってからでした。

 

トイレ掃除を率先して行うのは、そこが一般的にいって、いちばん汚い、鬼門といわれるように、不浄の場所だからです。そこをリーダーが率先することに価値があるのです。

 

もちろん、それは患者さんではなくスタッフに見せたデモンストレーションです。そうすれば皆、文句を言わずに掃除にも励んでくれるようになります。それでも文句を言ったり、さぼったりするスタッフがいるとすれば、それは雇う時に人選を間違えたとしかいいようがありません。

 

ただやればいいというわけではありません。実際、人知れず努力してでも、掃除のプロにならなくてはいけません。挨拶もそうです。笑顔もそうです。自分ができて、初めてスタッフもついてくるものです。仏頂面の上司がいくら「挨拶!」と言っても説得力がありません。

 

朝に医院前を掃き掃除するいちばんの目的は、道行く人への挨拶です。笑顔で「おはようございます!」。好印象をもってもらえます。最低5分は外にいます。率先してやりますが、必ず毎日スタッフ一人に手伝わせます。

 

実は医院の近くに幼稚園があって、先生たちがいつも掃き掃除をしていて、その前を通ると挨拶をしてくれるのです。笑顔で挨拶をされて悪い気がする人はあまりいないと思います。私自身、その先生たちに挨拶の大事さを学びました。それをスタッフ全員にも伝え、ともに実行に移したのです。

 

もちろん、挨拶の仕方も大切です。例えば、流れ作業ではなく、ちゃんと立ち止まって頭を下げて患者さんを見送る。出て行く間際にも声を掛ける。お金を掛ける必要もなく、そうしたおもてなしを徹底的にやることで、1日5人ほどだった患者さんの数が、瞬く間に30人から50人に増えていったのです。

1日1回はデンタルチェアに座って「患者目線」で確認

掃除や整頓などの際に重要なことは、必ず患者さんの目線で確認することだということも、この過程で学んでいきました。商店などのコンサルタントも同じことを言います。商業施設のリスク管理もそうだと聞いたことがあります。

 

私たちや店員さんと、来店される患者さんやお客さんとでは、目線が違うのです。お店を思い浮かべるといちばん分かりやすいと思いますが、レジから外を見ている目線と、ドアからお店の中に入ってくる目線ではまったく違います。見えているところも違う。気になるところも違う。動線の動きやすさも違う。なんのための掃除、整頓かといえば、もちろん働く側にとってもそれは大切ですが、一義には患者さんからの印象のためです。だから患者さんのように入口から入ってみる。受付を外側から見る。そして診察室に入ってみることが必要です。

 

さらに、私は1日に一度は必ず、患者さんが座るデンタルチェアに座って診察室を見回します。そうすると、気づかない汚れが見えてきます。整頓の必要性や動線の確認もできます。これもまた見えている景色が違うことからの気づきです。

 

もちろん、電話には1コールから遅くとも2コールで必ず出るように徹底しています。電話を掛けてきている人に、こちらの事情は見えません。だから待たされるとやきもきしてしまうのです。

 

細かなことも一つひとつ改善していきました。例えば、接客、医院でいえば患者さんの誘導ですが、ここも、心のこもった流れが大切なのです。流れ作業という言葉を使うと、通常は心がこもっていないように思われてしまいますが、流れるように誘導して初めての人にも不安を与えないということです。こちらがまごまごしてしまったら、患者さんは落ち着かないものなのです。これもまたスタッフ全員に徹底します。

 

医療もサービス業だということが、自分で医院を切り盛りしてみて深く理解できました。「サービス」の語源にはサーブする。主人と執事という上下関係という意味があります。サーブするこちら側が執事です。一方でホスピタリティ=おもてなしという言葉はホストとゲストの関係ですので、上下関係ではなく対等だそうです。

 

私は、例えば初診の患者さんにはサーブし、馴染みの患者さんはおもてなしするのがいいと考えています。提供しているのは医療ですし、いつまでもへりくだるのもよくありません。それはむしろ嫌がられると思います。いずれにしても、大切なのは自然体であることなのです。

待たせるとき、「デンタルチェアを倒す」ことも差別化

患者さんに待ってもらっている間もサービスをすることは可能です。診察中にデンタルチェアに座ったまま患者さんを待たせる際には、本人に聞いて差し支えなければ少し倒した状態で待ってもらいます。

 

なぜ倒すかというと、倒さずに座っていると、人間、どうしてもキョロキョロと周りを見回してしまうものです。その点、少しだけ倒して寝ている状態にすると、ほとんどの人は目を瞑ってリラックスしています。たとえ同じ1分であっても、その方が感覚的には時間の流れがゆっくりに感じられるからです。

 

最近では、天井にモニターを設置しています。倒れた状態で見やすい角度で天井に埋め込んだテレビ画面です。お子さんは治療中にもDVDでアニメなどを観ることができますし、大人の人はテレビなどを観ることもできます。もちろん好き好きなわけで、選択肢を用意しているわけです。

 

 

河野 恭佑

医療法人社団佑健会 理事長

株式会社デンタス 代表取締役社長

 

 

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※本連載は、河野恭佑氏の著書『歯科医院革命 大廃業時代の勝ち残り戦略』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

歯科医院革命 大廃業時代の勝ち残り戦略

歯科医院革命 大廃業時代の勝ち残り戦略

河野 恭佑

幻冬舎メディアコンサルティング

コンビニエンスストアを1万軒以上も上回る歯科診療所の施設数。 一方で少子化によって患者は年々減少し、過当競争が激化しています。 年間で1600軒もの施設が廃業し、「大廃業時代」といわれる歯科業界で生き残っていく…

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