「アルツハイマー病の症状」に有効な薬はまだないが…
アルツハイマー病の人は異常な考え(妄想)、実在しないものを見る幻視、徘徊などの異常な認識や行動が起こり、周囲の人の迷惑のみならず本人の危険になることもあります。そのようなアルツハイマー病の人の症状に効果のある薬はまだありません。したがって、薬以外の介護、リハビリテーションや環境の調整によるしかありません。
しかし、認知症と似た症状が現れる統合失調症、てんかんなどに有効な薬を転用することがあります。しかし、これらの薬にはパーキンソン病や糖尿病などを悪化させるという副作用がしばしば現れます。副作用の少ない非定型抗精神病薬という種類の薬を使うこともあります。その中でもとくにクエチアピンは比較的副作用が少ないようです。
しかし、薬はいずれも副作用を伴うので、この薬を使ったとしても短期間に留め、環境の改善やケアによって心理症状や異常行動を良くする努力を優先することが大切です。
アルツハイマー病にはうつ状態がしばしば伴うのでうつ病性仮性認知症とアルツハイマー病とは見分ける必要があります。それでもアルツハイマー病初期の人でやる気がないとか、自殺企図を訴える場合、抗うつ薬が効くことがあります。その中でも副作用の少ない、セロトニン再取り込み阻害薬が好まれて使われています。
フルボキサミン、パロキセチンなどです。ただ、消化器障害や睡眠障害などの副作用がありますので、注意が必要です。
多くのアルツハイマー病の人は睡眠が障害されます。認知症のない人に効くベンゾジアゼピン系睡眠薬はアルツハイマー病の人にはあまり効果がありません。かえって興奮するとか、不眠を悪化させることもあります。こんな場合に抗うつ薬トラゾドン、最近ではより生理的な睡眠を誘導するスボレキサントやレンボレキサントが勧められます。
薬以外の治療法(ケア・リハビリテーション)
アルツハイマー病の治療薬としてわが国で認められているものはドネペジルなどの4剤のみで、これらもアルツハイマー病を完全に治癒させることはありません。
そのため、薬以外の治療法-ケア(介護)やリハビリテーション-が行われています。
アルツハイマー病の人に対するケアは4つの方向から行われています。行動を介するケア、感情・感覚を介するケア、認識を介するケア、刺激を介するケアの4種類です。これらのケアは経験的に行われてきましたが、認知症の人やその家族にとって有益であることが最近、徐々に証明されてきました。これからも引き続いてもっとケアの有効性を実証して行く必要があります。
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中村重信
京都市出身、1963年京都大学医学部卒。1990~2002年広島大学医学部内科学第三教授、2002年~広島大学名誉教授/洛和会京都新薬開発支援センター所長(現在顧問)。2005年~公益社団法人「認知症の人と家族の会」顧問。主な著書:ぼけの診療室(紀伊国屋書店、1990)、痴呆疾患の診療ガイドライン(ワールドプランニング、2003)、老年医学への招待(南山堂、2010)、私たちは認知症にどう立ち向かっていけばよいのだろうか(南山堂、2013)受賞:日本認知症ケア学会・読売認知症ケア賞「功労賞」(2017)
梶川博
広島県広島市出身。1957年修道高等学校卒業、1963年京都大学医学部卒。1964聖路加国際病院でインタ−ン修了、医師国家試験合格、アメリカ合衆国臨床医学留学のためのECFMG試験合格、1968年京都大学大学院修了(脳神経外科学)医学博士。1970年広島大学第二外科・脳神経外科(助手)、1975年大阪医科大学第一外科・脳神経外科(講師、助教授)。1976年ニューヨーク モンテフィオーレ病院神経病理学部門(平野朝雄教授)留学。1980年梶川脳神経外科病院(現医療法人翠清会・翠清会梶川病院、介護老人保健施設、地域包括支援センター)開設、現在会長。医学博士。1985年槇殿賞(広島医学会会頭表彰)、1996年日本医師会最高優功賞。日本脳神経外科学会認定専門医、日本脳卒中学会認定専門医、日本脳神経外科救急学会・日本神経学会・日本認知症学会会員、広島県難病指定医、広島県「もの忘れ・認知症相談医(オレンジドクター)、日本医師会&広島県医師会、日本医療法人協会&全日本病院協会広島県支部所属。メールアドレス hkajikawa@suiseikai.jp
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