量的緩和政策の功罪 (※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●量的緩和政策は、政策金利ゼロ%時の緩和効果やシステミック・リスクの抑制効果が期待される。

●ただ入口と出口は非対称、バランスシートの拡大は短期間で可能だが、縮小には長期間を要する。

●過剰流動性が滞留し続ければ、一部資産価格の割高さを常態化させる環境を整えてしまうことも。

量的緩和政策は、政策金利ゼロ%時の緩和効果やシステミック・リスクの抑制効果が期待される

今回のレポートでは、量的緩和政策について、評価できる点と懸念される点を改めて考えます。量的緩和政策とは、中央銀行が金融市場の安定や景気刺激をねらい、市場に大量の資金を供給する政策のことです。伝統的な金融政策において、政策金利がゼロ%近くに達し、一段の利下げが困難となった場合、国債などの証券を金融機関から買い入れて、長期金利の押し下げをはかる、非伝統的な金融政策です。

 

量的緩和政策はまた、システミック・リスク(個別の金融機関の支払不能などが他の金融機関に波及し、金融システム全体の機能が著しく低下するリスク)にも効果的と考えられます。システミック・リスクが顕在化すると、金融市場や経済活動に深刻な悪影響が及びます。量的緩和は、証券購入を通じ、金融機関に大量の資金を供給するため、システミック・リスクの抑制と、金融システムの安定化につながります。

ただ入口と出口は非対称、バランスシートの拡大は短期間で可能だが、縮小には長期間を要する

このように、評価できる点も多い量的緩和政策ですが、実は「入口と出口が非対称」という大きな特徴があります。入口というのは、バランスシートの拡大速度のことです。量的緩和政策の実施が決まれば、中央銀行は直ちに金融機関から国債などの証券を買い入れ、市場に対し大量の資金を迅速に供給することが可能となります。その結果、短期間で中央銀行の国債保有残高は急増し、バランスシートは膨れ上がります。

 

一方、出口というのは、バランスシートの縮小速度のことです。中央銀行が、バランスシートを元の水準に戻すには、保有する国債を金融機関に売却すればよいのですが、実際にこれを行うと、需給悪化で国債の価格が下落(利回りは上昇)し、市場が混乱する恐れがあります。そのため、中央銀行は国債を満期償還まで保有せざるを得ず、バランスシートの縮小には、極めて長い時間を要すことになります。

過剰流動性が滞留し続ければ、一部資産価格の割高さを常態化させる環境を整えてしまうことも

また、政策の実施期間中、経済見通しの悪化で緩和継続、システミック・リスクの懸念で緩和強化となるため、実施期間が長引けば、バランスシート縮小はさらに長期化します。つまり、量的緩和政策をいったん実行すると、バランスシートの水準は簡単には元に戻らないことになります(図表1)。

 

(注)データは2008年1月から2021年6月。日銀とECBの総資産残高は月末時点での為替レートでドル換算したもの。 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]日米欧の中央銀行総資産残高 (注)データは2008年1月から2021年6月。日銀とECBの総資産残高は月末時点での為替レートでドル換算したもの。
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

実際、米金融機関はすでに10年以上、巨額の準備預金を余剰資金として抱えており(図表2)、これは、テーパリングや利上げでは、解消できません。

 

(注)データは2008年1月2日から2021年7月14日。 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]米金融機関の準備預金 (注)データは2008年1月2日から2021年7月14日。
(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

金融市場に過剰な流動性が長期にわたって滞留すると、一部の金融資産の価格は、割高な水準にまで押し上げられやすくなります。過剰流動性の吸収には、中央銀行による証券売却が必要ですが、前述の通り、実際には難しいと思われます。そのため、量的緩和政策の副作用として、価格の割高さが調整されないまま常態化する環境を、整えてしまうことが考えられます。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『量的緩和政策の功罪』を参照)。

 

(2021年7月16日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフマーケットストラテジスト

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介

投資情報グループは、運用や調査経験豊富なプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場について運用会社ならではの情報発信を行っています。幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、年間で約800本の金融市場・経済レポートの発行の他、YouTube等の動画、Twitterでの情報発信を行っています。

著者紹介

連載【市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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