(※写真はイメージです/PIXTA)

働き方が急速に変わりつつある中でも、日本の「年功序列」は健在です。老後不安が大きく叫ばれるようになった現代において、長く勤めていれば昇進・昇給するシステムに安心感を覚える人も少なくないでしょう。しかし、このような忠誠心・協調性を求める働き方は、労働者にとっても組織にとっても「リスクでしかない」という事実をご存じでしょうか。※本記事は、谷本真由美氏の著書『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)より一部を抜粋・再編集したものです。

日本の生産性が低い原因…「年功序列」と「終身雇用」

日本では2014年に、日立製作所が年功序列賃金を廃止したことが大きな話題になりました。同社は、管理職の社員について、給与全体の70%を年齢や勤続年数に応じた年功序列の制度で支給し、残りの30%を仕事の内容に応じて支給してきましたが、職務や仕事の成果に応じた報酬を支払う体系に変更しました。ソニーやパナソニックなどの大手企業も廃止しました。

 

海外のメディアや金融機関、経済学者は、日本企業が年功序列賃金から能力給に移行することは、日本企業のパフォーマンスを改善するとして歓迎します(※1)

 

しかし、そもそもこれがニュースになるということは、日本の組織では年功序列賃金がいまだに一般的であり、能力給に移行する組織はまだまだ少ない、という事実の表れです。

 

年功序列賃金は、そもそも、従業員がその会社に長期間勤務することが前提になっている賃金体系です。英語圏では年功序列のことをseniority payと呼びますが、今やそんな賃金体系があるのは、政府や学校などの公共機関か、一部の製造業などだけです。

 

民間企業の場合は、能力のある人ほど、様々な企業からお声がかかるので、高い給料や、より良い待遇を求めて頻繁に転職を繰り返す人が珍しくありません。同じ組織に長年勤務する人もいますが、その割合というのは、日本に比べると多くはありません。新陳代謝の早い知識産業の場合は、製造業や医療、軍事関係、公的機関などに比べると、働く組織を替える頻度がより高いです。職場を替わるのが当たり前で、短期間就労も珍しくないので、職場に対する忠誠心というものもありません。

 

例えば石油およびガス業界の場合、Hays(グローバル人材のための転職エージェント)による調査では、2013年に同じ職場で働いている期間が1年未満の人は24.6%であり、10年以上働いているのはたった7.8%です(図表1)。

 

出所:Haysの調査から筆者作成
[図表1]現在の職場での就労期間 出所:Haysの調査から筆者作成

 

※1 http://www.ft.com/cms/s/0/87586772-a600-11e4-abe9-00144feab7de.html#axzz3dq1qHqFm

 

海外では「より良い職場」へどんどん転職するのが当然

職場を替える頻度が日本よりも高いのは、北米や西欧州だけではなく、インドや中国などの新興国でも同じです。インド人は、日本に比べて階層社会であり、受けた教育により、最初の段階でつく仕事が変わってしまいます(※2)

 

例えば、超有名大学を卒業したエンジニアの場合、最初から幹部候補生や、上級技術職としての業務が割り当てられます。日本のように、丁稚奉公のようなことはやらないのです。さらに、高い報酬を求めて転職を繰り返すのが当たり前です。

 

このような働き方が当たり前なので、年功序列の賃金体系や、終身雇用を前提として退職金を払う、という報酬体系では、不満を抱く人が多くなってしまいます。能力により各自の報酬に差がつくわけではないので、不公平感が蔓延します。

 

これは、北米や欧州で働いているインド人でも同じです。

 

私の経験では、イギリス人や欧州大陸の人々よりも、割り切りが早いなという印象を受けることがあります。仕事で関わっていたあるイギリスの組織では、転職してきたインド人は、早い人の場合、1週間で職場に見切りをつけて転職していきました。

 

イギリス人やフランス人ですら「そこまで割り切らなくてもいいんじゃないの?」と驚いたほどですが、周囲のインド人たちに話を聞いてみると、「それは普通だ。もっと良い条件が来たのだから、別の組織に行くのは当たり前でしょう。なぜ驚くのですか?」という回答でした。このような傾向は、中国や台湾においても同じで、より良い職場があれば、どんどん転職していきます。

 

会社に対する忠誠や、やめたら同僚や職場に対する裏切りになるのではないか、という考え方はありません。ですから、人事部の重要な仕事の一つは、優秀な従業員のリテンション(滞在)率を高める報酬体系を考えたり、福利厚生を企画したりすることです。リテンションを高めることが目的なので、従業員の間で、福利厚生や勤労体系に差をつけることは当たり前ですし、稼ぐ人にはボーナスを上乗せするのも当たり前です。

 

※2 http://toyokeizai.net/articles/-/14021?page=2

 

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日本人が知らない世界標準の働き方

日本人が知らない世界標準の働き方

谷本 真由美

PHP研究所

「働き方」にこれほど悩むのは日本人だけ⁉ 好評ロングセラー、『日本人の働き方の9割がヤバい件について』を大幅に加筆してアップデート! 日本、イギリス、アメリカ、イタリアの現地組織での就労経験を持つ著者が、海…

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