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資産価値を損なう「組み換え提案」をされ…
とはいえ、相続対策の重要性が周知されてくるにつけ、不安を感じる資産家に漬け込む業者も増えているため、注意が必要です。高齢の父親の相続対策に悩んだ結果、9億円の物件を売りつけられそうになった会社員の方は、すんでのところで大損を免れました。
●相続対策の提案を信じたら、まさかの大損害に!?
山田さんは50代の会社員で、都内に配偶者と大学生の子ども2人の4人家族で暮らしています。山田さんの父親は資産家で、東京の目白の広い邸宅に暮らしています。母親は数年前に亡くなりました。父親は自宅近辺に1棟マンションを購入しているほか、かなり広い駐車場も所有しています。いずれの土地も最寄駅から徒歩5分程度と、申し分のない場所にあります。
山田さんはなにより相続税を心配し、父親やきょうだい(妹、弟)と相談のうえ、数年前に1棟マンションを購入したという経緯がありました。しかし、それでもまだ多額の税金がかかるものと推察されます。あちこち相談先を探していると、知り合いが勤務している信託銀行から声がかかりました。そこで不動産業者を紹介され、賃貸物件の購入を勧められたのです。
該当の物件は高齢者住宅の土地・建物で、上場会社が運営して稼働しているものでした。所有者は地元の建築会社で、築3年の物件を手放し、新たに別の物件を取得するのが売却の理由だと説明を受けました。
不動産業者を紹介した信託銀行は、購入にあたって借入すれば節税になるといい、売買代金の9億円は全額貸し付けしてもいいと申し出ています。また、全額の借入が不安なら所有地の一部を売却して3億円程度を捻出し、残りの6億円を借り入れする方法もあると説明されました。金額の大きさに不安を感じ、山田さんは筆者のもとに相談に見えたのです。
紹介された物件について調べてみると、どう見ても販売額が割高だと思われました。土地も奥に細長く、非常に使いにくい形状なのです。購入した価格で売却することも困難だと判断せざるを得ませんでした。
問題はほかにもありました。その土地は最寄り駅から徒歩15分以上かかる場所にあるのです。該当の土地の購入にあたって売却を勧められている父親の所有地(駐車場)は、最寄り駅より徒歩5分程度。広い道路に面した正方形寄りの長方形で、価値には2倍以上の開きがあります。駅近の価値の高い土地を売却してまで、価値の低い物件を購入するメリットはありません。
筆者は山田さんに調査結果を見せながら、「借入のために資産価値を落としてまで負債を抱え込むことは、かなり危険だと思います」とお話しすると、山田さんは「やっぱり、そうですよね…」と納得されたご様子でした。その後、山田さんは資産組み換えの提案をキッパリと断ったとのことです。
今回の提案はかなり無謀だと思えるものでしたが、一般の方の場合、信頼している先から勧められると「そういうものか」とあっさり納得してしまうのかもしれません。ですが、そこは冷静になり、あらゆる情報を探して見極めることが必要です。
節税対策を打ち出しながら、リスクが高い物件に融資をつけて売ろうという姿勢は、あきらかにお客様目線ではありません。資産価値を落とす組み替えはもちろん、融資のための不動産購入も、相続対策の視点で見れば本末転倒だということを、しっかり覚えておいていただければと思います。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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