最近の売れ筋本からわかる「自信のなさ」「必死感」
最近のビジネス書のベストセラーを見ると、ビジネスのノウハウ本を読んで、なんとか自分を高めようと考えている人が少なくないことがわかります。
つまり、大恐慌の時代ほど社会には絶望していないのですが、就職氷河期が始まった頃や、バブル崩壊直後に比べると、明らかに切羽詰まった人が増えているのです。俯瞰(ふかん)的な社会の先行きや、外国のことに興味を持つ人は、昔に比べると多くはありません。内向きな考え方の人、臭いものには蓋(ふた)をしたい人が増えています。日本で最近人気のテレビ番組が、日本の小売店の些細(ささい)なサービスを外国人が褒め称(たた)えるもの、海外と日本を比較して「日本の方がすごい」と自信満々で伝えるものが増えていることからもわかります。
景気の良かった頃は、外国のことを知って、ビジネスや経済に役立てようと考える人が少なくなかったのですが、最近では、諦めモードの人が多く、日本はすごいと空(から)威張りしたい人が増えているのです。外のことを耳に入れなければ、日本のダメな状況を認識しなくてもすむからです。つまり、自分に自信がなくなっている人が多いのでしょう。
大変興味深いのが、自分の心を鼓舞するような、ビジネス書の体裁をした自己啓発本の売れ行きが上がっていることです。大恐慌の時代ほど絶望はしていないが、「働き方=自分のあり方」に悩んでおり、日々、自分の弱った心を勇気づけて、「私はできる」と言っていなければ、やっていられないという人が増えているのかもしれません。
現代日本人に「悩みすぎる人」が増えた根本原因
日本人はなぜこんなに「働き方」で悩んでいるのでしょうか? これまで見てきたように、就職氷河期の日本人は、まだ社会に希望を抱いていました。仕事術を学ぶ本にしても、切羽詰まった感じのものは人気がありませんでした。今は、とにかく早く、簡単に、自分の能力を高めたい、というものが売れています。
バブルの頃は、世界情勢や経済を学び、それらをいかに将来に生かすか、自分のビジネスに繫(つな)げるかという、自信に満ちた考え方をする人々が多かったようです。テレビには、落合信彦氏が登場し、イスラエルでモサドやCIAと空手で戦った話をしていたのです。
対談番組には竹村健一氏が登場し、佐藤優氏よりも、100倍ぐらい上から目線の世界情勢を語っていたのです。そういうふうに、ダイナミックな世界の話に人気があったのです。話の内容が噓か本当かよりも、ダイナミックな世界のことを知り、日本がその世界の中にいるのを感じることで、高揚感を得る人が少なくありませんでした。
デパートのお惣菜売り場のサラダの盛りつけ方がすごいから「日本は世界一」と自慢する、今のテレビ番組のみみっちさとは、比べものになりません。当時は、モサドの話を聞くのが忙しくて、「働き方」にネチネチと悩む暇がなかったのです。それに、飲み会やディスコに通うので大忙しでした。
昭和大恐慌の頃でさえ、人々は社会に怒りはしても、「働き方」には悩んでいませんでした。当時の日本の人々は、社会、政府、資本家、階級を憎んでいました。映画や雑誌はそんなものをユーモラスに批判し、不満がある労働者は労働争議を起こしていました。つまり、怒りが「外部要因」=「自分ではどうにもならないもの」に向かっていたのです。
ところが、今の人は、社会への怒りや不満を「自分」に向けています。「自分」がダメだから今すぐ変わりたい、優れた人のことを真似して「自分」が変われば幸せになれる、就職できないのは「自分」が無能だから、「自分」が学べばなんとかなる…。
しかし本当は、「自分」がダメな理由、仕事で悩む理由は、今の自分が置かれた状況を作っている人や、それを支える「仕組み」なのです。つまり、自分ではどうにもならないこと=「外部要因」が、自分の悩みの原因なのです。それに気がついていない人が多すぎるのが、日本の問題です。
谷本 真由美
公認情報システム監査人(CISA)
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