2021年成長率は「6%以上」と控えめな設定
全国人民代表大会と政治協商会議(両会)の経済面の焦点は、2021年の経済運営と第14次5ヵ年規画だ(連載『中国「第14次5ヵ年規画」の注目点』参照)。
2021年成長率は2020年発射台がパンデミックの影響で低くなったことから、専門家の間で8%は容易に達成できるとの声が多い中、「6%以上」と控えめに設定された。これに関し、政府工作報告は経済の回復状況を考慮したこと、改革・イノベーション(創新)を集中的・精力的に推進し、質の高い発展を推し進めていくことに寄与するとした。
また李氏は両会後記者会見で、「経済規模を考えると目標は決して低くない。実績がもっと高くなる可能性はあるが、内外に膨大な不確実性があることに留意すべき」と述べている。専門家の間で数値目標を設定すべきでないとの声が高まる中※1、改めて数値目標を廃止することへの中国指導部内の抵抗が強いことがわかる。
※1 例えば、2021年1月の馬駿人民銀行貨幣政策委員会委員の財富管理50人論壇セミナーでの発言。
抑え気味の財政金融政策とマクロ目標設定
財政政策面では、赤字比率目標(前年目標3.6%以上→3.2%前後)や地方政府が発行する専項債(特定プロジェクトの資金調達)の発行額上限が抑えられ(同3.75兆元→3.65兆元)、コロナ対応で前年1兆元発行された特別国債の発行計画もなくなった。
他方、金融政策はマクロ政策全般に急激な転換はない(不急転弯)とされたことに沿って、金利引き下げなどへの言及はなく、穏健な金融政策を「柔軟、正確、合理的適度に堅持する」ことを強調、広義貨幣供給量(M2)と社会融資総量は名目経済成長に見合った伸びにするとした(人民銀行の2021年第一四半期金融統計によると、実体経済の成長率や消費伸びなどと比べると、3月末の広義貨幣供給量、融資、社会融資総量の前年同期比伸びは各々9%、13%、12%など何れも2月末伸びから鈍化し、抑え気味だった)。
消費者物価上昇率目標も厳しめに設定された(前年目標3.5%前後→3%前後)。企業に対する減税・経費負担削減について、報告は小規模事業者の増値税(付加価値税)課税最低限度を月売上額10万元から15万元に引き上げるなどのミクロ措置を発表したが、マクロ数値目標には言及せず、3月末の国務院常務会議で5500億元以上と発表(また最大の減税措置は製造業に対する研究開発費の企業所得税控除を75%から100%に引き上げるもので、年間減税額800億元になると発表)。景気刺激という面では、前年の目標・実績2.5兆元以上から大幅抑制となった。
中国当局が昨年コロナで成長率が落ち込んだことを奇貨として、2021年をバブル再燃や債務膨張を抑制する絶好の機会と捉えているとの解釈が可能だ。実際、市場もそうした見方を強めたようで、両会期間中、株価は大幅に下落した。
上海・深圳交易所の主要300銘柄の株価をまとめた指数※2は春節前にピークを打った後、両会直前から下降し終了時には2月比14%の大幅下落を記録、今年に入ってからの上げ幅をほぼ帳消しにした。
※2 滬深指数。「滬(フー)」は上海の略称。
焦点の研究開発費に関し、中央政府予算の基礎研究費伸びを10.6%に設定。科技要員が予算を使用する際の裁量権を拡大し、不合理な業務負担を軽減するなどして、長年研鑽を積んできた成果を発揮する(十年磨一剣)環境を整え、コア技術分野のブレークスルー(突破)を実現するとした。
都市部の調査失業率(前年目標6%前後→5.5%前後)や新規雇用創出目標の引き上げ(同900万人→2019年目標と同じ1100万人)には、民生重視の姿勢を示す意図が窺える。